記憶屋 (角川ホラー文庫)

  • KADOKAWA/角川書店 (2015年10月24日発売)
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感想 : 272
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うわ~、この切なすぎるラストシーン、好きすぎるわ~。

初読みの作家さんの作品。この方は弁護士さんで弁護士活動の合間に小説を執筆しているという異色の作家さんなんですね。

本書は、何人かのフォロアーさんが紹介していたので気になってはいました。
書店に行ってみると、本書は…「おお、平積み!」ではないですか。しかもPOPには『2020年、映画化決定!』の文字が。「映画の原作になった小説に外れなし」という原則が僕のなかではあるので、本書の「読みたい度」が一気にアップ(ちなみに映画は山田涼介君と芳根京子さんが主演なんですね。うん、キャスティングはぴったり)
さらに、決め手になったのは、カバーイラストが僕の大好きなloundraw氏だったってことですね(←おい。そこはフォロアーさんのレビューが決め手になったって言っとけって!)。

本書は『記憶屋』に依頼すれば記憶を消してもらうことができるという都市伝説的な話がテーマになっています。
大学生の遼一は、同じ大学で一つ年上の杏子に片思いをしていました。杏子は夜道恐怖症という病気(?)を持っていて、飲み会でもなんでも午後8時には家に帰ってしまいます。
遼一は、杏子の夜道恐怖症を治そうと、夜間は杏子に付き添い、自宅まで送り届ける役目をしていました。杏子もそんなひたむきな遼一の姿勢に好感をもち、本気で夜道恐怖症を克服しようとします。
そんなある日、遼一は深夜、外を歩いている杏子を見つけます。夜道恐怖症の杏子がこんな深夜に出歩いているはずはないと思いながらも、遼一は杏子の前に立ち、夜間恐怖症が治ったのかと彼女に尋ねます。すると彼女は、遼一に向かってこう言うのです「あなた、誰?」

本作は、第22回日本ホラー小説大賞・読者賞を取っていますが、いわゆる「ホラー」ではないですね。どちらかと言えば『記憶屋』という怪人の正体を探るミステリー要素が強い作品です(でも「あと少しで彼女と両思いになれる」って時に彼女が自分のことを完全に忘れたりしたらと思うとこんな恐怖はないですねぇ。おお、怖い、怖い)。
遼一が『記憶屋』のことを調べれば、調べるほど、遼一の身近な人達の記憶が消えていき、自分の記憶も断片的に消されているのではないかと思い当たることもあります。そして、自分が妹のように大切に想っている3歳年下で幼なじみの女子高生・真希にも『記憶屋』の魔の手が迫っていきます。

本作品は「人の記憶を消すことは善か悪か」という深い問題が根底にあります。
確かに誰でも消したい記憶ってありますよね。
僕の場合は、学生時代に片思いの女の子に告白して、こっぴどくフラれた記憶とかね(笑)。
確かに消したい記憶ではあっても「じゃあ♪その女の子の存在の記憶ごと消しちゃいますね☆(都市伝説の怪人なのになぜか自然と魔法少女風に再現される僕の脳内構造・・・たぶん病気)」と言われれば「ちょ、ちょ、ちょっと待って。そ、そこまでは消さないでください」ってなります。
僕の場合はこんな感じですが(←どんな感じだ)、例えば性被害にあった女性や子供の頃に酷いトラウマを受けた人の記憶なんかは消した方が幸せになれるのかなぁとも思ったりもしますね。う~ん。難しいですねぇ。

主人公の遼一もこの辺のことで悩みますが、彼は自分の存在ごと杏子の記憶から消してしまった『記憶屋』に対しては、相当、根に持っていますので、そこは簡単に割り切れません。
そんな想いを胸に遼一は最後に『記憶屋』と対峙することになります。

そして、このラストシーン。
僕の中では、少なくとも今年一番の衝撃というか、切なさ爆発というか、美しいというか。まあ、強いて言えば、いわゆる号泣ってヤツですね。
いろいろと考えさせられることもあって、そこを想像すると涙が今でもこぼれ落ちそうです。
本書はノスタルジックホラーの名作になると思います。

遼一を主人公とした『記憶屋』の話は、本巻で終了。
続編の『記憶屋2』『記憶屋3』は本作から10年後の話で登場人物も違うそうです。2、3で一つの話みたいですね。いずれ読んでみようと思います。
切なさがこみ上げるこの『記憶屋』。素晴らしいお話でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説(エンターテイメント)
感想投稿日 : 2019年7月18日
読了日 : 2019年7月14日
本棚登録日 : 2019年7月18日

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