オイディプス王(ソポクレス) (岩波文庫 赤 105-2)

  • 岩波書店 (1967年9月16日発売)
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ギリシア神話。率直なところでは、非常な驚愕と共に心の内で叫びをあげる程に恐るべき作品だと感じた。まさに驚異・驚嘆であり、その震えをこの身で感じたまま、作品そのものを抽象的に述べることが許されるならば、爆破と爆発であったと表現しても過言ではない程の、怒涛の劇的進行だった。オイディプス王は、所謂フロイトの提唱したエディプス・コンプレックスで有名であり、並のひとであれば知る物語であるし、ラカンにおいても最重視する項目であるから、概要はわたしも以前から知っている。むしろ知っているからこその驚異が文面にあり、最低でも二度読むか、確実に記憶に留めて序盤を正確に回想することが想定されているだろうと考えられてしまう程に、緻密に言葉が選ばれているように思われた。オイディプスは、終局において装飾品を手に取り、絶叫と共にこれを自らの両目に幾度も幾度も突き刺すが、その常軌を逸した行動を自然だと思わせてしまえる程の(それでも読んでいるだけの者は身を縮めてしまうが)、真に迫りくる運命の足音があり(これを演出とひとは言う)、納得させてしまえる程の隠喩・換喩があった。ラカンにおいて我々は何人たりもエディプス期を逃れられない運命にあり、ギリシアにおける一(いち)神話が、全人類が必ず遭遇したであろう悲劇を描いていると想像すると恐ろしい気持ちがこみ上げられるのは至極当然と言える。ソポクレスはエディプス期のことなど絶対に考えなかっただろう。しかし、人類を観察する過程でこのようなもの、あるいはこれに準ずる悲劇を見、そして書いたのであれば、その縮図はひとつの幾何学として、我々の幼少期にも現れるようなかたちで浮かんでくる。そうして見たとき、オイディプス王は、エディプス期の悲劇と、社会基盤の上に拡大されたその再現とも言える二度目の悲劇を被ったことになる。我々は、どのような人であれ、幼少期を懐古するならば、ひとりの偉大な小さな王であったし、オイディプス王に登場する幾人かの人物も、我々の小さな身近な人物の抽象である気がしてならない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2018年3月7日
読了日 : 2016年9月1日
本棚登録日 : 2016年9月1日

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