かわいい結婚

著者 :
  • 講談社 (2015年4月10日発売)
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本棚登録 : 758
感想 : 94
5

可愛いタイトルと裏腹な読書メーターの感想に気になり、本屋で冒頭を立ち読みしその場で購入を決意。非常に面白かったです。面白いと言ったらわくわくしながら楽しんで読めたみたいで語弊があるんだけど、なんという言葉で言い表せばいいのか分からない。

本作は3作の短編が収録されている。

1作目はタイトル作。結婚して仕事を辞めて家庭にはいった専業主婦が主人公。家事が大の苦手で家は散らかり放題の大惨事、旦那に対しては好きだから照れちゃう、地元の気の合う友達と話したり家事代行サービスのバイトをしたりして……って、こんなストーリーをつらつら語ることに意味はないの。結婚して家庭に入ったら、誰と結婚しようと毎日毎日掃除して洗濯して料理して買い物しての繰り返し。それが永遠について続く。一生続く。そのことに気付いてしまってもうどうしようもなくて叫ぶ。妻が上達していく主婦業に密かに喜びを見出しているのに、旦那が何とも思っていないのが、何とも言えない。

日常からの逸脱ではなく、鬱々はしておらず、明るく前向きな奥様でもなく、なんて言えばいいんだろう。この雰囲気と空気。うまく言い表せられない。停滞していた空気が動き出してうまく回り始めたというのに、カタルシスを感じているのは本人だけで、旦那は何とも思っていないというか無関心というか、当たり前だと想ってるこのギャップ。
女性は誰でも家事ができるものだと思っていたという旦那の男としての傲慢さ。けれど、妻のことを大事に思っていて一方的に糾弾せず、なんとかしたいなぁと誰かに相談する自然さ。男は男として生きている時点で、ごく自然に女性に対する傲慢さを身につけている。それを批難するのでもなく、にじみ出るように物語上に自然に出てくる。結婚するために仕事を辞めざるをえなかった女性の悲哀だとか、そんな仰々しいものではない。ただ気付いちゃったのだ。

2作目は、ある朝突然女の身体になってしまった20代の男の話。回想では女性の気持ちが分からない傲慢な男性だったのが、一日を女性として過ごすうちに女性の性としての大変さと楽しさに目覚めていくさまが面白い。割と途中からノリノリで、買い物して身を飾る楽しさに目覚めていくのが楽しかった。女性は化粧やファッションに気を使わなきゃいけないし、男性から無意識のつもりの視線を感じるし、本当に大変よね。愚痴っぽくなって終わるのではなく、意外な展開(女装が趣味になり、元カノと結婚して姉妹のように買い物を楽しむ)で読後感が悪くないのも良い。

3作目はあらすじは省くが、女としての悲哀がよく出ている。ただ女は悲しい、辛いで終わらせるのでなく、変に前向きになるのでもなく、ため息をつきつつも日々の生活を歩んでいこうとする様の加減がちょうど良い。

3作とも非常に面白かった。同年代のアラサー女性に、自信をもってお勧めします。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: その他(日本の小説)
感想投稿日 : 2015年9月20日
読了日 : 2015年9月20日
本棚登録日 : 2015年9月20日

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