孤独の価値 (幻冬舎新書)

著者 :
  • 幻冬舎 (2014年11月27日発売)
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本棚登録 : 1721
感想 : 169
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海外で大学院生活を送った中で、「孤独」と戦ってきた経験と学びを書き残しておこう、とおもってブログ記事を書いているなかで、少し参考になる本はないか、と思って探した一つである。

結論からいうと、賛成できる部分が3割ぐらいという感触だった。あまりに「孤独」のネガティブなイメージを再定義しようとして、多くの孤独に苦しんでいる人を引き付けられない内容になっている印象を受ける。

著者が冒頭で宣言している通り、「孤独というものは、それほどひどい状況ではない」という主旨が一貫して展開されるエッセイなのであるが、本当に孤独に苦しみ、そして向き合って乗り越えた経験を踏まえると、本当に孤独の中でもがき苦しんでいる状況では、そんな「考え方の転換」は非常に難しい。

違和感だったのは、「孤独を感じること」が間違ったように論じられている点だ。孤独が仲間のぬくもりとか、友達と交わる楽しさといったものを失うことで、喪失感となって孤独感を引き起こすとしている。しかし、それは実は人と仲良くしないといけない、仲間に認められ、みんなでなにかを成し遂げることが善だという「刷り込み」があるだけで、そもそもそれが善であるわけではない、と指摘する。

なるほど、それもそうだと思う。一人でいることが悪いわけではないし、一人でいることを好む人を「あいつは寂しいやつだ」とジャッジするのは間違っていると思う。例えば「一般的ではないだろうけど、たとえば、天体観測に一生を捧げる人生だってある。数学の問題を解くことが、なにより大事だという人生だってある。仏像を彫るために、命を懸ける人生だってある。」という部分は納得だ。「友達や家族に裏切られても、自分一人で楽しく生きていける道があると教えることがあるだろうか」という部分もまさしくそのとおりだ。孤独が悪いものと決めつける風潮がおかしいという点には同意できる。

しかし、自分が一人でいて寂しいと感じるその感情は否定してはいけないと思う。一人でいて、周りには自分を理解してくれる人がいない。自分の苦しみをわかってくれる人がいない。その気持ちを受け入れて、消化することが重要なのであって、そんな感情は間違っている、という論には個人的には賛同はできない。私が書こうとしているのは、これをどう受け入れて、消化したかである。

しかし、本当に孤独に苦しむ経験を得ることで、孤独の価値を理解することもまた事実だ。多くの仲間や友達に囲まれていたときとは違う自分を見つけるプロセスでもある。それもまた、孤独の辛さを受け入れるプロセスで見えてくるものである。そういう意味では、本書はすでにその境地に至った視点からのコメントととも受け取れる。

この辺りの表現だと、私は池田晶子の言葉好きだ。孤独を味わうという文脈の中で、子供の頃しつけのために押入れに入れられていたのを実は好んでいたという。「空間的に閉じこもることによって、逆に内に開ける」という表現は、そこに至れば孤独を味わうと言える境地だということをうまく表している。(池田晶子『暮らしの哲学』)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 自己啓発(やる気)
感想投稿日 : 2020年5月11日
読了日 : 2020年5月9日
本棚登録日 : 2020年5月11日

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