アラスカ物語 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1980年11月27日発売)
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本棚登録 : 808
感想 : 85
5

読了後、放心状態。(9月はこの感じ多い)
読み終わった後に涙が。。。
それくらい心打たれる作品でした。

アラスカの地でエスキモーの救世主となったフランク安田の生涯を綴った作品です。
戦前~戦後の時代に、日本とはかけ離れたアラスカで90歳で亡くなるまで激闘の人生を送った人物。
(この本読むまで彼のことは知らなかった。。。)
正直、日本人っていうこと以外、共通点がなかったので読み切れるか自信がなかったのですが、冒頭(極寒のアラスカの大地に投げ出されるフランク安田)から物語に引き込まれます。

詳細は省きますが、この小説がなぜこんなにも魅力的に感じたのか、自分なりにまとめてみました。
3つの視点が相乗効果を生み、物語に厚みを出していると思いました。
①フランク安田の視点
 彼は自分自身が生きるため、エスキモー達を救うために、幾度となく厳しい決断を迫られます。
 フランクの命は彼一人の命ではなく、数百名のエスキモーの命でもあります。数々の苦境が訪れる度に迫られる決断。その決断をする際、彼はキーとなる人物に絶対的な信頼を寄せます。一度信用した人間は、誰が何と言おうと信じきるのです。
 自分の経験(話す内容、使う言葉、人と接する時の態度、表情等)とあらゆる角度で、その人物を分析し、信用に値する人物かどうかを時間をかけて見抜いていき、運命をその人物に委ねます。
間違いは許されないプレッシャーの中で迫られる決断。
私はそこに、現代で言えば経営者たるものの姿を見た気がしました。
一本芯が通った真っすぐな性格ですが、それを表に出さない。そんな彼の人間性にも魅力を感じました。

②フランク安田を支える妻・ネビロの視点
 エスキモーの中では勉強熱心で、現代的な考え方をするネビロ。陰ながらフランクを支え続けます。
フランクを心から尊敬し、信頼し、彼の右腕となりエスキモーだけでなく、自信の子どもも守っていく。
苛酷な環境の中で自分の守るべきものをひたすら守っていきます。
 彼女の生きざまを見ていると自分が恥ずかしくなりました。もし、自分がネビロだったら、その大役を全うできるだろうか。また、あの環境の中、誰を恨むこともなく、夫だけでなく、他人を敬う気持ちを持てるだろうか。
あまりに平和な世界にいるせいか、人として大切なものを忘れてしまっていることに気が付きました。
 
③著者・新田次郎の視点
 「アラスカ取材紀行」という章が最後にあるのですが、「アラスカ物語」のその後、ともいえる内容になっており、こちらも胸打つものがありました。
 著者の綿密な取材、それを臨場感あふれるものに仕立てあげ読者に伝える。アラスカの自然環境、歴史的背景、移り行く時代。文章を読み進めると、フランク安田の生きてきたアラスカの大地が目の前に広がります。彼の崇高な文章力、表現力、構成力があってこそフランク安田の人間性に厚みがでたのだと思います。
 
そして、なんと言ってもラストが美しい。
涙なしではいられません。

”「ネビロ、出てごらん、ダイヤモンドダストが日和山に振っている。きれいだなあ」”(抜粋)

人は死ぬとき、人生で一番見たいものが目の前に現れるのかもしれません。老年、日本に帰るチャンスが何度か訪れましたが、フランクが日本に帰ることはありませんでした。人生の最期に彼が呼びたかった名前は誰だったのでしょうか。





 
 

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 文学
感想投稿日 : 2023年10月12日
読了日 : 2023年10月12日
本棚登録日 : 2023年10月8日

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