著者はテレビ番組制作会社のディレクターとして、これまで主にNHKの番組において綿密な取材に裏打ちされたドキュメンタリーを数多く手がけてきた。
代表作として、実在の国語辞書編纂者の秘話に迫った「ケンボー先生と山田先生~辞書に人生を捧げた二人の男~」等、その守備範囲は実に広く、「言葉」「哲学」「医学」「気象学」「司法」と…多岐に及ぶ。
また、肝心な表現方法も演劇的演出やアニメを使うなどユニークな手法を駆使し、視聴者を佐々木ワールドに引き込んでいく。昨今は手がけた作品の礎となった膨大な取材を元に執筆もこなし、現在ではノンフィクション作家としても活躍。
本書は、これまでの番組制作に関わる上で常に思索、追求してきた「いかにして面白いコンテンツを創る」かを語った技術論。
具体的には、発想・企画・取材・制作…それぞれのフェーズについての思索は深く、極めて実践的である。創作分野のみならず様々なビジネスシーンに置換できる普遍性に富んだ「仕事に対する哲学」を叙述。
そんな敏腕ディレクターが説く「はたして面白いとは何なのか?」。
「差異と共感」であると断言する。要するに、世間一般の常識や先入観とのズレ(差異)を視聴者に提示することで、新たな「気づき(発見)」を知る。その結果、モノの見方を広げ、これまで異質なものと見なしていたものを受け入れ、より深い共感へと導くことに至る。
【本書の中で最も突き刺さった言葉】
『妄執こそがクリエィティブの源泉』
視聴者の「心に刺さる作品とは、結局のところ作り手側の人生や妄執が反映された作品が大半。つまり、作り手が「本当に作りたいと思って作った作品を観た際に視聴者は心を揺さぶられる」。
ぶっちゃけて言えば「思い込み、思い入れ」が創作の牽引力となるということ。それに加え、著者は『アイデアとは「既存の要素の組み合わせ以外の何ものでもない』」とも語る。そのためには地道な取材や学びを徹底かつ執拗に行うことは不可欠で、古いものを知ってはじめて斬新なものが生まれる。型破りの第一歩は、まずは型を知ること。また、企画成立に立ちはだかる課題や悪条件が 「価値あるアイデア(打開策)」を生む。良いアイデアは「必然性」から生まれるんだと畳み込む。
逆説的に言えば、できない理由を列挙するという行為は何としても成し遂げるんだという思い入れが希薄であることの表れであるということですな。
企画、発想、アイデアはとかく「斬新さ」「ユニークさ」に目を奪われがちだけど、著者は世にはびこるそんな通念を一掃し、「ヒントはあなたの前にあるんだよ!」ってことを教示してくれる一冊でありました。
- 感想投稿日 : 2019年11月10日
- 読了日 : 2019年11月10日
- 本棚登録日 : 2019年11月10日
みんなの感想をみる