東京オリンピックを翌年に控えた1963年、横浜の港町、ノスタルジックな街並み、新聞部、インテリかぶれの男子学生たち、恋…。作品キーワードはすごく好きなものばかりで、実際楽しんで見れた。ストーリーは二つのテーマを追う。主人公海の通う高校で老朽化した木造部室棟「カルチェラタン」の取り壊し問題と、海と風間が実兄妹ではないかという疑惑について。
事前情報で「学生運動」と聞いて、もっと暗く陰惨なものを想像していたけれど、そんなことはなく学生たちが明るくコメディに「カルチェラタン」存続のために奮闘する。自分が知らない時代に生きる彼らが情熱を燃やす対象は不思議で興味深い。「カルチェラタン」はレトロな建造物が好きな人間なら誰にでも魅力的に見えるだろうし、軽快なBGMと共に海達が内部を探検していく場面では前のめりでワクワクしました。
海と風間の関係性についてはサラっと終わってしまった印象だけれど、見どころは答えを知る場面ではなく、問題を抱えながらも行動する海のひたむきさにある…のかなあ。
親というアイデンティティ形成の根っこ、それも自分の中で神格化されていた亡くなった父の隠し子疑惑。本当のことがわからなかった時に海はつらく悩んだと思うけれど、それでも目の前にいる人をないがしろにせず、自分のやるべきことをこなしていた。
彼らの関係性についての事実は海の母親から聞いたわけだけど、でもそれぞれの父親の人となりを知る人から直接聞けたということは2人が前に進んでいくための重要なファクターである。特に海は、旗を上げることは父親に絡むある種の呪いだったわけで、その行動に対して同じ方向を見ながら旗を挙げ返してくれる人が現れたのはとても大きい。
あと風間のイケメンの友人の水沼のキャラが良かった。
現代にいたら変人なのかもしれないけど、本を読み、哲学を語り、言論の力で世界を変えられると信じる、あの時代に生きた彼は魅力的に見えた。
- 感想投稿日 : 2012年8月24日
- 読了日 : 2012年8月17日
- 本棚登録日 : 2012年8月24日
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