ピエタとトランジ (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (2022年10月14日発売)
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感想 : 28
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短篇集「おはなしして子ちゃん」に収録された「ピエタとトランジ」が帰ってきた!
単行本版の書名は「ピエタとトランジ〈完全版〉」だが、文庫化に際して「ピエタとトランジ」と改題。
「奇想の作家」として凄まじい短編ないし中編を続々発表してきた著者にとって、たぶん最長の作品ではないか。

テーマや核心に関しては、ネット上の著者のインタビューや、山内マリコの「家父長制を殺しに来た」という書評(すごいタイトル)に言い尽くされていると思う。
個人的には、読んでいる最中は気づかなかったが意外としっかりコナン・ドイル「シャーロック・ホームズ」シリーズをふんわり下敷きにしていることに驚いた(しっかり、ふんわり、って矛盾しているようだが、この作品においては両立しているのだ)。
また、青山剛昌「名探偵コナン」ばりの殺人事件呼び起こし体質→黒沢清「キュア」→伊藤計劃「虐殺器官」→コーマック・マッカーシー「ザ・ロード」っぽく、章が切り替わるごとに年数が飛ぶごとに切り替わっていく疾走感が素敵だと感じた。
探偵こそが悪を誘発するって「コナン」でよくネットミーム的に言われているが、よく考えてみたら結構昔から、むしろ本格系の作家や評論家が言ってきたことと重なるように思う。
詳しくないのでふわっとした言い方しかできないが、小栗虫太郎「黒死館殺人事件」法水麟太郎や横溝正史の金田一耕助に関して、法月綸太郎あたりが言っていたような。
とすると本作は本格ミステリを望む向きには適さないが、探偵論を望むコアな読み手の一部には刺さるのではないかと思う。

てなことをくだくだしく書いてしまったが、素晴らしいバディもの。
老いに、喪失に、退廃に対して、悲哀も込みで呵呵大笑で笑い飛ばしてしまう、元気の源にもなる、小説だ。

全12章+エピローグ(?というか元の短編)
1.メロンソーダ殺人事件
2.女子寮連続殺人事件・前篇
3.女子寮連続殺人事件・後篇
4.男子大学生集団変死事件
5.海辺の寒村全滅事件
6.無差別大量死夢想事件
7.夫惨殺未遂事件
8.死を呼ぶババア探偵事件
9.疑似家族強盗殺人事件
10.傘寿記念殺人事件
11.高齢者間痴情のもつれ殺人事件
12.世界母子会襲来事件
0.ピエタとトランジ

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 文学 日本 小説 最近 /女性
感想投稿日 : 2022年10月26日
読了日 : 2022年10月26日
本棚登録日 : 2022年10月22日

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