ドレス (河出文庫 ふ 18-2)

著者 :
  • 河出書房新社 (2020年5月7日発売)
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本棚登録 : 220
感想 : 11
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全8作。しかし一作ごとの密度よ!
奇想がますます前面に押し出されて、彼女が背表紙に解説を書いていたブライアン・エヴンソンっぽいなーと思っていたら、文春オンライン「作家と90分」でハサン・ブラーシムとともに言及されていて、やっぱりね。
影響云々だけでなく、同時代性ということも思う。
「爪と目」では人称の点で妙にうきうきしたが、そんなところをゆうに越えて、人称と文体が、語られる内容である男女の分かり合えなさ(フェミニズム)を、語ることで越える。
もはや男女や時代を超え「人の業」を対象とする小説だ。

【 】内は河出書房新社HPより。

■テキサス、オクラホマ 007 【私とドローンたちの秘めやかな関係】……ここ数年のドローンだとかセグウェイだとかタブレットだとかが出てくるが、心みたいなものとか孤独とかに作者は焦点を当てている。と思っていたら、「私たち」という人称が現れ、監視とか記録とかいう意味合いが備わってくる……奇想たっぷりの本書の開幕に相応しい。
■マイ・ハート・イズ・ユアーズ 039 【かわいい夫と私はついに結ばれる】……村田沙耶香の思考実験SFに似ている。宮崎駿「崖の上のポニョ」のグランマンマーレ=チョウチンアンコウの生殖も思い出す。……あとでインタビューを読んだが、ばっちり当たっていた。
■真夏の一日 063 【メラニンに取り憑かれた女の、とある一日】……不穏さと静謐さと。漫画化するなら「DDT」や「電気蟻」のころの丸尾末広か。フェニミズムを意識的に導入する作家だと思うが、レンという少年がほくろを(決定的に)指摘する場面には、いずれ産む子が成長したあとに過去の母へ自分という呪いを吐く、とでもいうような、幾重にも捻じれた構造があるんではないか……と。
■愛犬 085 【見知らぬ犬の記憶がまとわりつく】……女性がふたり、女子がひとり現れ、それぞれ生活の空虚を埋める何かを欲する。これ藤野さんのパートナーが読んだら冷や汗びっしりなのではないか。
■息子 121 【姿の見えない愛しいあの子はどこに】……不穏さフル。漫画化するならか山岸凉子か近藤ようこか。いた存在を、いなかったことにする、夫妻ともに……怖。
■ドレス 141 【恐ろしい異質のものたちが、恋人の心を奪っていく】……表題作。文庫本のイラストはまさにこの甲冑のイメージだろう。ハードカバーのイラストはむしろ、作品内容を上手に隠蔽するものだったのだろう。社会的な視点を導入して、恋人が自分を見合うかどうか、なのに鉄くずのようなアクセサリーだけには戸惑ってしまう、という。フェミニズムを描き、それを越えて人とのわかりあえなさに達している。
■私はさみしかった★ 179 【あの頃、襲い襲われた決して忘れられない出来事】……たぶん作者も面食らうだろうが、勝手に堀辰雄の「風立ちぬ」を連想した。あの作品、現在の語り手と、語られた視点人物が同一にも拘わらず、ひどく乖離している、それを表現する文体が肝なのだが、本作も「私」の立ち位置がはっきりしないというかブレているというか、語られている時点に寄り添っているのかいないのかよくわからない不思議な口調なのだ。語られている表面はエグいというか酷いというか厭な感じがするというか。傲慢と攻撃性と極悪と。しかし語り手の透徹した目線……それこそ秋にさみしさを感じるような……が既定にあるからこその、美しさというのか静謐さというのか……ひどく感動してしまった。
■静かな夜 203 【耳を澄ませば、あの声が聞こえてくる】……中盤で「おれ」が出てくるのに仰天するのは「爪と目」と同じ趣向か。映画化するなら黒沢清だな。あるいは別アプローチをすればSFホラー「イベント・ホライゾン」か。
◆解説 和田彩花

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 文学 日本 小説 /古典
感想投稿日 : 2020年11月11日
読了日 : 2020年11月11日
本棚登録日 : 2020年5月27日

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