2004年の伊坂幸太郎さんの本。再読。
僕にとって実は、新刊当時のこの本を読んだのが、初伊坂幸太郎さんだったなあ、という思い出があります。
そのときに、奇妙な舌触りだったけど、もっとこの人の小説読んでも良いなあ、と思ったのを覚えています。2017年現在から振り返ると13年前。
連作短編。「陣内」という若い男が全編に登場。
この「陣内」がむちゃくちゃなことばかり言動する、型破りでロックンロールな、実に小説らしい愉しい人物。
そして決して、「善玉」でもなければ「人格者」でもない。むしろ傍迷惑な非常識人。そして、特段な特技がある訳でも無い。
ただ、この「陣内」さんの、非常識な情熱の方向自体は、間違っていない。
と、いう物語の仕掛け。これがうまく作られています。
そして、伊坂さんらしい、「現実世界の暴力的な不条理、非道」というベースがあります。
これだけはどこまで行ってもこの人はブレない。イーストウッドの映画「グラン・トリノ」の世界観。
それに対して、物語が、小説が、一撃をくらわすための、痛快装置としての型破りな主人公。
割とその後の(その前も)伊坂さんの娯楽的物語の背骨を作る構造なんですが、押しつけがましくなく、上質なものだと僕は思います。
その代り連作短編なので、全体に設定とカタルシスのぶん回し方が、ささやかと言えばささやかではありますが。
「陣内」さんはやがて、家庭裁判所の調査官になります。そして問題のある少年たちと接触していきます。
問題のある少年たちに対して、金八先生的な取り組みと感動がある訳ではない。そんな簡単な救いを拒絶した向こうに、それでもなんとか物語としての救いと力を感じたいなあ、という風情。
その力技を作るためには、常識のタガを外せる何か、非情で暴力なシステムを混乱させられる何かが必要だ、ということなのだと思います。
分析は易し、それを創作するのは才能です。
「死神シリーズ」など、この傾向のものは、伊坂さんの仕事の中では「定番の印籠、桜吹雪の金さん」のような安定度を誇る娯楽シリーズだと思います。
その安定とパターンを、好むか好まざるかは読み手によるのでしょう。
僕は割と、好きです。
- 感想投稿日 : 2017年6月8日
- 読了日 : 2017年4月28日
- 本棚登録日 : 2017年4月28日
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