アナ-キ-・国家・ユ-トピア: 国家の正当性とその限界

  • 木鐸社 (1994年11月25日発売)
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この著作、昔は大好きだったが、今読むとつまらない。
ノージックの頭のキレはわかる。たしかにロジカルで分かりやすいけど、しかしやはり彼にとってこの話題は、一時のおもちゃでしかなかったのか?
ロールズの、人生を懸けた考察の方が、全然深みがあるわ。


リバタリアニズムlibertarianismについて ―― ノージックを中心に

自由主義を徹底的に擁護する思想。
国家を完全に廃止する「無政府資本主義(=アナルコ・キャピタリズム)」論か、あるいは国家の機能を司法・治安・国防に限定する「最小国家」論を主張する。

ノージックは後者。
 ←→ アナーキスト
 ←→ リベラリスト

アナーキズムとのちがい
 ……国家は、自然状態から勝手に生成してしまう。

リベラリズムとのちがい
 ……権原理論

ユートピアとのちがい
 ……ちがいというか、ユートピアのための枠がすなわち最小国家である。

まとめ
 ……最小国家は我々を、侵すことのできない個人、他人が手段として使うことのできない人格として扱う。
   最小国家によって、我々は持っている権利から生じる尊厳を伴う人格として扱われる。
   それゆえ我々は、自由な人生が生きられるのです。

『アナーキー・国家・ユートピア』の意義
これは主に以下の2つの点で、当時の学界に大きな影響を与えました↓
① 「小さな政府」の経済的効率性の証明とは別に、その道徳性を論証する試みであること
② ロールズ”A Theory of Justice” (1971) のパラダイムに対する根底的な批判を通じて、正義論においても一石を投じたこと

アナーキー・国家・ユートピア
問題提起
個人の生得的権利を侵さずに、国家がなしうること――があるのならば、それ――はなにか?

アナーキズムをたおす
自然状態から最小国家が、神の見えざる手に導かれて、生成する過程を検討します。

* ここでのアナーキーは、ロックの自然状態(各人が概ね諸々の道徳的制約を守り、行動すべき形で概して行動している状態)を想定している。


第一段階:自然状態
―しかし、自然法を破って他人を搾取する者もいる。そのときに……
・ みんな自分に有利に事件を解決しようとする(過度の報復)
・ 自分より強い相手だったら、賠償の取立てができずに泣き寝入り
      →数人で組んで対抗する
        ||
第二段階:複数の保護協会が林立
 ―しかし、協会の全ての者が、いつでも出動できる状態にいられるわけではない。なので……
・ 保護業務を行うために雇われる者が出て、保護サービスを売る仕事をする企業家が出る【分業】

 ―しかし、自己防衛を装って他人の権利を侵害したがる者や、ケンカ好きの者に使われ、コストがかさむ。
  なので……
・ 「正しいのはどちらか」を決定するインセンティブが生まれる【合理的な私利】

 ―しかし、異なった保護協会が、異なった正義の裁定を下すこともある。そのときは……
・ 二つの協会が、武力で戦う
      →敗れた協会の依頼人たちは、勝った協会と取引関係を結びたがる【市場の圧力】

・ 地理的区域上に、各協会の勢力範囲が形成される
      →ある協会の勢力の中心付近に住む、別の協会の依頼人は、移住するか、取引先を近くの協会
に変える【 〃 】

・ 二つの協会が、対等かつ頻繁に戦う
      →両協会はコストの大きさを悟り、正義の裁定が異なったときには、裏で話し合いを持って同
意へ至るか、第三の判定者を設置して、その決定に従う(⇒統一された連邦司法制度)
【規模の利益】

 いずれにしても、一定の地理区間内にいるほとんどの人が所属する、何らかの共通の制度が生成
        ||
第三段階:支配的保護協会(超最小国家)
―これはすなわち国家か?
 支配的保護協会は、①ある人々に、自分の権利の実行(=自己救済)を許すようにみえる
②領土内のすべての個人を保護するわけではない
・ しかしもし、協会の正義の裁定が誤っていた場合、「依頼人を権利の侵害から守る」ということは即ち「独立人の権利を侵害する」ということ(※1)
          
ヴェーバー「一定の領域内での実力行使の独占が、国家の条件として決定的なものである」
この状態の協会は、当該領域内での実力行使を、事実上独占している
      ||
第四段階:最小国家
(※1)
 →その不利益の賠償のために、協会は独立人にも保護サービスを提供しなければならない。

最小国家の条件 ① 当該領域内での実力行使を独占し、
        ② 領域内の全成員に保護サービスを提供する

拡張国家擁護論をたおす
ロールズの「配分的正義」に対して、「保有物の正義justice in holding」を提唱

権原理論entitlement theory
① 労働価値説に従って正当に獲得された原始所有物に、権原を持つ
② 正当に獲得されたものは、すべて自由に移転できる
③ 上の二つの繰り返し以外に、保有物に対して権原を持つことはない

正当な原始的取得とは?
・ 他者にも同じくらい十分にその資源が残っている、あるいは
・ 占有によって他者の状態が悪化しない
状態で、正当な原始的取得がおこなわれ得る。

②に関して、別に我々は誰かが分けたパイをもらった後、その雑な切り方を訂正するために最後の調整を行っている子供の立場にいるのではない。
誰かに分配を決められたのではなく、自発的な交換によって分配が行われている。
(ウィルト・チェンバレンの例で、直観的理解を求めています)

実際、配分的正義を主張する人々は、各人の「必要」「道徳的功績」「限界生産量」「いかに一所懸命に努力したか」などなどに応じて、各人に分配せよ、と言っている。
しかし分配以前に生産があるのであり、あらゆる生産物は、それらの上に権原を有する人々に既に属しているものとして、この世に生み出されるのである。
※ ちなみに自発的な贈与は否定していません。


ユートピアとの関係
ひとつの安定したユートピア、というのはあり得ない。
だって、あなたの想定する理想社会(コミュニティ)と私の想定するそれは、違うから。
無数のコミュニティがあり、それらを自由に行き来できるとき、コミュニティ全てを包む枠が、ユートピアであると言えるだろう。
そしてそれは、最小国家に等しい。

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カテゴリ: 政治思想
感想投稿日 : 2004年6月12日
本棚登録日 : 2004年6月12日

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