高齢者の介護施設で起きた殺人事件をきっかけに、刑事と介護士が特異な関係に陥っていく。
事件の背景には、高齢者や障がい者、性的マイノリティに対して、生産性がないことを理由に差別し排除しようとする現実社会の問題が描かれている。
その一方で、主人公となる刑事と介護士は破滅願望にとらわれて、暗く湿った欲望のままに沈んでいく。夢かうつつか曖昧な二人の異様な関係は、若い頃に読んだら嫌悪感しかなかっただろうけれど、閉塞感のなかで現実から逃避する投げやりな姿がやけにリアルで、この作品では不可欠なものだとじわじわと滲みてきた。
政治的な圧力や冤罪事件、戦時中713部隊が満州で行っていた生体実験など、さまざまな暗部にも話は及ぶ。そのため、全体的にやや散漫になってもいるのだが、記者の追う現実の問題と、二人の非現実的な行為とがバランスよく絡み合って重層的な世界を作り出していた。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
や行
- 感想投稿日 : 2021年1月25日
- 読了日 : 2021年1月24日
- 本棚登録日 : 2021年1月23日
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