世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 全2巻 完結セット (新潮文庫)

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感想・レビュー・書評

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  • 「村上春樹作品に一度挫折した人の再入門作品」
    村上春樹作品に触れたのは「ノルウェイの森」が発表された時だった。当時、銀河英雄伝説や幻獣少年キマイラが大好きだった自分にとって、何もひっかかるもののない作品で、縁のない作家だと思っていた。
     数年前からランニングが習慣になり、「走ることについて語るときに僕の語ること」を読み、彼のエッセイや旅行記(滞在記)を読むようになった。しかし、「ノルウェイの森」の全く面白くなかったという印象だけが未だ残っており、物語に手を出そうとは思ってなかった。
     旅行記(滞在記)の文体は好きなので、試しにもう一度トライしてみようと思って選んだのが、この作品だった。代表作の一つということもあり、内容は言わずもがな。性描写が村上春樹作品としては控えめなのも再入門としては良かった。

  • 村上春樹の4作目の長編。

    何せ前作よりエッジの効きまくっている展開。

    ハードボイルドワンダーランド、序盤のやけに遅いエレベーターの描写から、その不吉な予感をぷんぷん匂わせる。一方世界の終わりの閉鎖空間は獣やら夢読みの仕事やら、これまた気味が悪いメタファー的な何かが出てくる異様な世界。設定がよくわからないが、よくわからないながらページをめくるしかない。

    完璧に解釈するなど到底不可能な作品であるが、まあこんなところか。
    ハードボイルドの私は現実を生き、諸々の出来事に巻き込まれ、脳の回路を組み替えられる。
    世界の終わりの僕は、ハードボイルドの私が行き着く先、というか、私の無意識の世界。
    意識と無意識を対比させる、春樹さん得意のやつだ。

    直感レベルでピンときた要素としては、
    計算士やら記号士やらが如何にも現代のIT技術者のように移り、一般人が入る隙のないところで、ビッグデータによる戦争が行われている現代にリンクできる。
    脳を書き換える作業についての博士の説明は如何にも脳死が人の死かという議論を予見したかのようで、臓器移植の是非に結びつく。
    IT技術者、医者に罪はないが、実際に人間のプライバシーだったり人間の臓器だったり、議論は政治家がやるが、結果的に操作するのは専門家だ。もちろん過失があれば責められ、過失がなくとも、その知識、経験があるだけで、巻き込まれる事象が多い。私は、淡々と職務をこなしているだけだがその周りの諸々の戦いに巻き込まれ、結果的に無意識の世界に送り込まれる。
    意識のあるリアルの世界を生きる私の言動は当然リアリティが高い。短期集中ながらも異様なエネルギーを消費して仕事に取り組む。贅沢はしないながら、給料を着実に溜め、引退後はチェスに勤しむ老後をイメージしている。博士の依頼で仕事をする。東京ガス社員の訪問や記号士の来襲など、奇妙な展開に素朴に疑問を抱き彷徨うも、それ以上の抵抗はしない。最期を知らされて、最期の1日を淡々と過ごす。やれやれって感じだ。

    世界の終わりは、最初は共産圏のように思えた。無意識に労働に勤しむ人々。財産のためでなく、労働のための労働を行う。影を奪い、心がない。よって奇妙なことに疑問をもたない。芸術文化の会話もない。門番なんかも、指示された仕事をこなしているだけ。満足も不満もない。本当に共産圏か宗教団体の比喩に思えた。
    でも最後に僕は、そこに残るという結論を取る。
    無意識の世界であることは確かだが、影と一緒に現実に戻るという選択をしない。その終わり方がまた何とも言えないのがこの小説の魅力なのか。理由も明かされないので謎に包まれる。そこの追及は諦める。

    ただこの小説がとても印象的なのは、私と僕が諦めを得た後の行動だ。私は博士の説明を受け、この世界が続がないことを知る。この世界がそれなりに気に入っているという意志を強くぶつけながらも、残り1日の時間に向き合う。ハンバーガーを食べ、ピンクの娘の服をコインランドリーで洗濯し、ブレザーを買い、レンタカー屋の女の子から車を借り、図書館の女の子とイタリアンにいく。ワインには詳しくないから女の子にメニューを委ね、部屋で3回セックスし、公園でビールを飲む。そして車を走らせ晴海埠頭で来るべきときを迎える。この終盤の春樹の筆の進め方が個人的に凄く好きだ。この作品が評価されるのは、むしろ前半から中盤の深く難解な仕掛けなのかもしれないが、それが故にか終盤の私のライフスタイルが凄く印象に残る。
    僕も、ダニーボーイのメロディを思い出し、女の子の心に迫る。そして影を送り届ける。僕のラストは謎ではあるが、女の子に向き合い、影にも正直に対話する。僕と世界の終わりの限界を知った後の僕は、躍動感が全然違う。それもまた無意識の世界において、非常に輝かしく映る。

    今思うのは以上だけど、またしばらくしたら読み直し、新しい気づきを得たいと思う。かなりエネルギーを消費する作品であった。



  • 私と僕の話が交互に進んでいく物語。

    失業の手続きやコロナの影響であまり集中して読むことができなかった。

    序盤は私と僕の世界のつながりがわからなかったが、徐々に関係性が明らかになっていく。

    全体的に暗く、あまり盛り上がりもなく淡々と話が進んでいった印象。

    博士が私の頭に埋め込んだ仕組みが難解で、私が永遠に意識が失われる理由があまりよくわからなかった。

  • 村上春樹はファンタジー作家であることがわかる。

  • 著者おとくいの2つの物語が進行していく構成。
    2つの物語の完結が618ページと長い。途中からハードボイルドに絞って読み進めて行くが、描写が長く物語の進展が無く、また気味の悪い世界で気力が続かず途中で読み終えてしまった。評価が難しい。

  • ブンガク
    かかった時間300分プラスアルファ

    機密情報を扱う組織に所属する「私」は、あるとき、脳の核にある自身固有の記憶の総体のようなものを用いて、情報の暗号化を行う。その方法は、「私」が所属していた組織からは禁止されていたが、依頼人である「博士」が組織の上層部と掛け合って、特別に許可を取ったらしい。
    しかし、今回の暗号化に用いた「記憶の総体のようなもの」は、かつて組織の重要人物であった「博士」によって微妙に書き換えられ、埋め込まれたものだった。脳の本来使われるべきでない回路を使ったことにより、「私」の肉体は死を迎え、その心は「自身の記憶の総体のようなもの」を読みかえた世界で永遠に生きることになる。そこでは、心が閉じ込められ、永遠に死ぬことができない、けれども、「私」がこれまでに失ったものは取り戻せるかもしれない。
    「私」は最後の36時間を過ごし、晴海埠頭に停めた車の中でボブディランを聴きながら、世界の啓示を受け止めて眠るーー。(ハードボイルド・ワンダーランド)

    「僕」には記憶がない。影もない。高い壁に囲まれた街?で、影と切り離されて「夢読み」の仕事を与えられ、光を奪われる。
    指示されたとおり図書館に行ってみると、そこには少女がおり、「夢読み」を手伝うという。一角獣の頭骨に刻まれた「夢」は、断片的でひとつの世界にはつながらない、けれども「僕」は夢を読む。
    ある日、この街?の門番に捕らえられている「影」と再会した「僕」は、互いが再びひとつに戻ることはできず、「影」はいずれ死に、そうすれば自分の心は消えてしまう、と知る。そういえば図書館の少女には、心がない。
    完全で終わりのない、しかし心のない世界に違和感をもつ「僕」。同時に、「僕」は、自分が少女を深く愛していることや、この街?に愛着をもっていることに気づく。
    再度「影」と会い、再び2人がひとつになって、この街?を出ることが正しいのだと考える「僕」。しかし、この街?を、いちど出たものは戻ることができず、少女とも二度と会えない。
    ついに「影」とともに街?を出るための大きなヒントにたどり着いた「僕」だがーー。(世界の終わり)

    …という2つの話が交互に、そしてリンクして進む作品。「世界の終わり」パートは、「ハードボイルド・ワンダーランド」における「自身の記憶の総体のようなもの」であり、「ハードボイルド・ワンダーランド」で肉体的には死んだ「私」が、「世界の終わり」で「僕」としてその街?のありようの謎に迫る、という構成。

    村上春樹作品の中で、これをベストに挙げる人がとても多いだけあって、ほんとうによくできた作品だ。SFであり、ファンタジーであり、冒険譚であり、恋物語であり、哲学的でもある。おもしろい。

    なんだろう、このリアリティ。いやもちろん文学的リアリティだが、なぜこの人は読者をそこに連れて行けるのか。そして、初期の作品だからか?後期の作品に見られる「フワッと感」みたいなのがなく、ビシッと辻褄が合っており、語りきっている感じがある。これも魅力だ。

    (ちなみに、個人的には「合う・合わない」がかなり出る作品だと思うので、村上春樹初心者にはぜったい勧めない。笑)

  • 「世界の終り」と「ハードボイルド・ワンダーランド」という全く別の2つ世界が同時進行する小説です。前者は高い壁に囲まれ、外界との接触がない街で、一角獣が住んでいる。そこで<僕>は古い夢を読んで暮らすことになる。どこか不思議な国で、<僕>は自分がなぜこの街に来たのかも分からない。後者はいわゆる現実の世界で、<私>は"計算士"と呼ばれる暗号を扱う仕事をしている。老科学者により意識の核に思考回路を組み込まれた<私>は、その回路に隠された秘密を巡って活躍する。
    同時進行するこれら2つの物語がだんだんと繋がっていく。この不思議な世界観がこの小説の醍醐味だと思います。表現が独特で少し読みにくいですが、世界観にぴったりな色や香りが美しく描かれています。ぜひ村上ワールドに浸ってください!

    蔵本2階中央閲覧室 913.6||Mu

    けんちゃん

    • tokudaidokusho2さん
      まったく別の世界が同時進行で描かれるという描写がどういうものなのか気になりました。村上春樹の本はあまり読んだことがないので、機会があれば読み...
      まったく別の世界が同時進行で描かれるという描写がどういうものなのか気になりました。村上春樹の本はあまり読んだことがないので、機会があれば読みたいと思います。
      2018/05/30
  • 村上春樹さんの著作の中で、唯一好きな本です。

  • ノルウェイの森がよかったので村上春樹読みたくなって読んだ本。
    これだけ騒がれるだけあるなあ、ってくらいうまい。
    待っている間、壁に貼ってある広告を一つ一つ読んで時間をつぶす、とか時代を感じた。携帯の普及してない時代。
    意識の世界に逃げる、って本読みたち全てにとって少し現実的なな恐怖だと思うけどどうなんだろう。

  • 村上春樹作品として、初めて読みました。とにかく衝撃を受けました。そして、その後村上春樹に魅了されました。

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著者プロフィール

1949年京都府生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。79年『風の歌を聴け』で「群像新人文学賞」を受賞し、デビュー。82年『羊をめぐる冒険』で、「野間文芸新人賞」受賞する。87年に刊行した『ノルウェイの森』が、累計1000万部超えのベストセラーとなる。海外でも高く評価され、06年「フランツ・カフカ賞」、09年「エルサレム賞」、11年「カタルーニャ国際賞」等を受賞する。その他長編作に、『ねじまき鳥クロニクル』『海辺のカフカ』『1Q84』『騎士団長殺し』『街とその不確かな壁』、短編小説集に、『神の子どもたちはみな踊る』『東京奇譚集』『一人称単数』、訳書に、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』『フラニーとズーイ』『ティファニーで朝食を』『バット・ビューティフル』等がある。

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