日本はなぜ世界で一番クジラを殺すのか (幻冬舎新書 ほ 1-1)

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  • 幻冬舎 (2007年3月1日発売)
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捕鯨反対のグリーンピースの立場にありながら、個人の立場から論争の決着を図ろうとする以下のような姿勢も示している。

・捕鯨反対側の「1頭たりとも殺させない」という頑固さが、日本を調査捕鯨の拡大や過激な捕鯨ナショナリズムに追いやってきた。
・南極海での調査捕鯨が沿岸捕鯨への希望を打ち砕いている。
・調査捕鯨をやめ、IWCの原住民生存捕鯨と整合性のある形で、捕鯨の伝統が根付いた地域に限定して国内の沿岸捕鯨を認めさせる方向をすすめる。
・沿岸捕鯨業者が要求している年間150頭は、沿岸の調査捕鯨で捕獲する年間120頭と大差ない。
・マグロをはじめ他の漁業問題では国際社会の模範ともいえる合理的かつフェアな交渉態度を示すことの多い水産省が、捕鯨問題ではまるで戦前のような国粋主義に凝り固まってしまうのはもったいない。

西洋の野生動物保護の思想とそれを感情論と捉える見方、捕鯨を日本の文化とする主張とナショナリズム、脂と肉というそもそもの捕鯨目的の違い、戦後の動物性蛋白質を支え、給食でも味わった世代の経験、IWCでの多数派工作合戦、制限のない調査捕鯨という抜け穴とそれに対する過激な妨害活動。すれ違いの歴史が重ねられたとはいえ、互いが対決姿勢や頑なな態度を続けると問題をこじらせるだけで、時間と税金を浪費し、生産物に対する国民の関心さえ失わせたという教訓になってしまっているのが皮肉だ。今年の国際裁判の判決で解決の方向に向かうのか、それとも態度を硬化させるのか。

捕鯨の対立の歴史と構図も概ね理解できたという意味で、本書は勉強になった。水産庁の頑なな態度に辟易する著者の気持ちも伝わってくるが、熱の入った状態で書いたと思われる部分も少なくないので、それが世間的にはよくない印象を与えてしまっているとしたら残念である。

突き取り式捕鯨は江戸時代初期に全盛を迎えた。磯のすぐそばまで来るザトウクジラとコククジラ、泳ぎが遅く死んでも沈まないセミクジラを主な対象とした。日本人が口にした肉類に占める鯨肉の割合は、1947〜48年には46%、1950年代も20%台が続き、鯨肉の消費量が最も多かった1962年には30%弱だった。

IWCには、1980年代の初めに独立間もない国々が、1990年代後半からはカリブ海、太平洋島しょ国、中米、アフリカ諸国が多く加入した。IWCの票買いにODAの水産無償援助(1994〜2005年に合計935億円)が使われ、IWCの年会費や加盟費も肩代わりしている事例も認められている。

捕鯨業界は、商業捕鯨モラトリアムが実現しようとしていた1974年に国際ピーアール社に委託して、マスコミの論説委員対策を行ったほか、著名人15人からなる捕鯨問題懇親会を組織した。

調査捕鯨は、調査計画書をIWC事務局に提出すれば実施でき、捕獲頭数の変更も可能。2005年には2倍に拡大する計画を発表した。IWCの科学委員会は、RMPにおいて日本の調査データは不要であると繰り返し明言してる。

商業捕鯨が行われた最後の年には1万3000トンの在庫があった。調査捕鯨が1994年から増産に入ると、在庫は1998年に底をついて増加に転じた。2000年以降、鯨類研究所は赤肉の値段を下げ始めた。2000年からニタリクジラ、2002年からイワシクジラの捕獲を開始したが値段は下がり続け、2002年には売れ残りが報じられるようになった。2006年にはナガスクジラを捕獲した。

鯨類については、水産庁が囲い込んですべての国際条約から例外扱いし、国内でも種の保存法や鳥獣保護法の対象から外している。ワシントン条約でも、日本はクジラ6種について態度を保留している。

シロナガスクジラは全世界で捕鯨対象になる前の16万〜24万頭から9000頭に、ザトウクジラは捕鯨前の15万頭から2万5000頭に減少した。改訂管理方式(RMP)は、推定資源量と過去の捕獲記録だけで捕獲枠を算出する。南極海のクロミンククジラについては年間2000頭という数字が得られているが、現在も見直し中。年間2000頭は、かつての商業捕鯨末期に採算割れギリギリとされた数字。

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感想投稿日 : 2014年8月18日
読了日 : 2014年8月22日
本棚登録日 : 2014年8月18日

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