あるヤクザの生涯 安藤昇伝

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  • 幻冬舎 (2021年5月12日発売)
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5

敗戦という価値観のどんでん返しが起こって、
日本が無法地帯化した時に現れた愚連隊。
その中で伝説的だった人物が安藤昇です。
その人物をなぜか石原慎太郎が私説小説化しています。
一気に読んでしまいました。

私は、なぜ石原慎太郎が、この人物を取り上げたのか、考えました。
今日本は、敗戦前夜にあるではないか、そして、再度、
日本人が絶望の淵に追いやられ、正確にいうと、無思考のまま、自ら自滅するように動きをし、
また多くの人が犠牲になるではないか?という危惧が、
石原慎太郎にあるではないかと考えました。

そのような状況の時に何が参考になるか?
その答えが、「安藤昇の生き様」ではないかと。
この著書の前には、田中角栄を取り上げています。

日本は明治維新(1867)から約80年後、
大日本帝国というシステムが崩壊しました。
そのシステムによって、300万人が犠牲になりました。
その犠牲があったことさえ、今は風化しています。
正直、犠牲になった人は、一体何だったんでしょうかと、思いますし、
高度経済成長期からバブルの繁栄の時に、今の繁栄は、
多大なる犠牲によって成り立っていると感じをした人がいたでしょうか?と思います。
今の日本のどうしようない状態は、「そのツケ」を払わされているような印象を持ちます。

歴史を「知らない」、「学ばない」、「わからない」、なぜなら、戦争は「怖いから」と、
そんな「軽ーい感じ」が少なくない日本人の意識の中にはありますが、
もうシャレにならない状況になっていると思います。
もちろん、先の大戦と同じで、自滅に向かうパターンです。

石原慎太郎は、戦後派と呼ばれる、戦前は「天皇万歳」から、戦後は「アメリカ万歳」という強烈な変化に対して、その筆舌尽くしがたい「日本(人)への違和感」と「過去の歴史を忘却する日本(人)」に対して、文学というツールを使い、カウンターカルチャーとして体現した人です。好き嫌いもちろんありますが、フニャフニャしていない日本人という点で、私なんかは好感を持っています。

1945年から戦後民主主義が動き出し、もうすぐ80年を迎えるコロナ禍の日本。
そのシステムでさえも今はガタガタになっているような気がします。
何かこの80年というのは、社会システムが崩壊する、または新しいものとなる、
一つの指標として重要な期間かもしれません。人の一生の時間と近いことにも、何か理由があるのかもしれません(戦前はもっと短い時間でしたが)。

今、日本人が戦後築き上げてきた社会システムが、多くの人の命を奪っているように思います。
よもや、システムの奴隷になっているような印象です。
主体的に生きることが難しく、何かに所属していないと、何もできない、考えられなくなってしまう、
日本の奇妙奇天烈な戦後民主主義は、今、終わりを迎えているのかもしれません。
もちろん、その恩恵を受けている人は必死にそのシステムの中にい続け、そのシステムに依存しますが、
敗戦時の状況を知れば知るほど、それは、百害あって一利なしとわかります。
今の小学生の夢が、会社員で、大学生の希望の職業が、公務員ということからも、
もう日本は、手の施しようがない状態になっているとわかります。
コロナ禍の前の就職したいTOP10位の会社、その半分以上が、今倒産しかけています。

戦前は、猫も杓子も、戦争、戦争、勝利、勝利と叫んで、
絶望的な戦争に突入していたことと、
戦後は、自由、人権、民主、戦争反対!と叫んで、
わけわからず、経済的な戦争、つまり、金、金、金になっていたことと、
表面的には異なりますが、底流を流れる日本人の行動原理は、
戦前、戦後も全く変わっていないように思います。
つまり、よく考えていないで他人をキョロキョロみて行動しているということです。

無規範化した今の日本人は、まるで敗戦時のようです。
社会が崩壊する前に、日本人が、今ぶっ壊れようとしています。
そんな状況で安藤昇の生き様は参考になるかもしれません。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年5月20日
読了日 : 2021年5月20日
本棚登録日 : 2021年5月20日

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