本書は、一般にトレードオフと言われている効率性と公平性についての経済学的知見を提示したものである。
第一章では経済学から見た効率性と公平性についての考察について書かれており、第二章以降ではそれらに関連した最近の研究(例えば幸福について)や、効率性と公平性を伴う最近の話題(例えば再分配の問題や教育に関することについて)の解釈を提示している。
本書は以下の点で有用である。
まず、効率性と公平性という昔から重要な論点であるこの分野について真っ向から説明を試みた点である。今までこの分野に関してダイレクトに説明を試みた本は(私の知る限り)ほとんどない。同時に、この分野は(特に現代において)関心を集めている分野であり、そのような点でも価値あるものである。それだけではなく、この本はそのチャレンジングな説明を試みているが、明快且つ説得力を伴う説明を行っており、内容としても評価できる。
次に、最新の研究の紹介や、筆者自身の(本書の分野に関わる)研究が多く紹介されている点である。一般向けに書かれている本でありながら、経済学を学ぶ者にとっても有益な情報が多くつまっているように思われる。
一方で、以下の点に留意が必要である。
はじめに、筆者自身の研究を至る所で紹介しているが、筆者である小塩氏の研究は、一般の研究に比べてやや極端な仮定を儲けた上で理論値を推定しているものが多く、そのようにして出た結果に関しての解釈は、幾分慎重になる必要がある。具体的には、①仮定が現実とどれくらいマッチしているか(あるいはかけ離れているか)を見定める必要が本来あり、②導きだされた理論値は設けた仮定によるものであるから、その仮定が現実から離れていれば定量的な解釈は意味をなさず、定性的な側面を知る事しか出来ない。本文ではそのようなリスクに関して(若干の言及はあるものの)あまり注視されておらず、特に定量的解釈に関しては果たして本当にそれでいいのかを見極める必要がある。少なくとも、鵜呑みは危険である。
次に、第一章の内容と、第二章以降の内容の結びつきが些か不明確である点である。おそらく筆者の頭の中ではしっかり結びつきがある上で議論をしているため、内容としては整合的ではあると思われるが、明確な結びつきを表現できていない。従ってこの結びつきに関しても読者にゆだねられるものかと思われる。
それから、本書はあくまで経済学的視点からの効率と公平の議論であって、効率と公平の総合的な議論ではない点は留意すべきである。
以上のような留意点もさることながら、私の全体的な評価としては、とても面白く、且つ有益な一冊であったように思われた。ここ半年で一番面白い本だった。社会科学を勉強・研究されている様々な人に是非読んでいただきたい。
- 感想投稿日 : 2012年1月31日
- 読了日 : 2012年1月31日
- 本棚登録日 : 2012年1月24日
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