●理解できないが、ひたすらに情熱的な文章
読み始めて、すぐに分かるのだが、物語性は冒頭のみで、ほぼない。
ツァラトゥストラが、様々な説法を独り、もしくは様々な人間や動物と「情熱的」に語るというものだ。
聖書をモデルにした、この構成は正直分かりにくい。事実、出版当時も受けが悪く、4部構成のうち、最後の4部は出版社がつかず、自費出版になったそうだ。そしてニーチェ自身も、受けが悪いために
後の論文で補足する羽目になっている。そういうわけで、この本を読んで何かを学ぶのは難しい。
だが、有名なセリフである「神は死んだ」と言い放つニーチェには、ニヒリズムの教祖的なイメージを持っていたのだが、この「ツァラトゥストラ」を読むと、完全に払拭された。「ツァラトゥストラ」は凄く情熱的な思想詩なのだ。つまり、この書物は、そう読むものなのだろう。
一部、抜粋してみよう
”頭上の空よ、あなたは清らかだ!
深い!光の深淵だ!
あなたをみていると、俺は神のような欲望に
かられて身震いする
あなたの高さのなかへ俺をなげあげること!
-それが、俺の深さだ!
あなたの清らかさのなかに俺が非難すること
ーそれが、俺の無邪気さだ!”
ほぼ、この調子である。
●「神は死んだ」
有名なセリフ。これは冒頭にツァラトゥストラが山を下りる際に古き神の信者である賢者へ言い放つ言葉だ。
このセリフは、何度もでてくる。徹底的にキリスト教を批判する。キリスト教の教えが陳腐化していくなか、
ツァラトゥストラは「神」ではなく、人間を超えた存在である「超人」を目指せと訴える。
ツァラトゥストラは、キリスト教だけでなく、現在の常識、権力をも攻撃する。彼が求めるのは創造であり新しい常識だ。そして善人を否定する。彼にとって、善人は自分の行いを正とするために、創造する人を陥れる、非常に厄介な存在でしかない。「神は死んだ」は、それを象徴する必殺のキラーワードだ。
ここで考えるのはニーチェの生きた時代だ。彼は1844年生まれ、1900年没。
そして、ツァラトゥストラは1833-35年にかけて出版されている。
ニーチェが生きた19世紀は欧州で革命が起き、自由主義、民主主義がたちあがっていた。
そしてイギリスでは産業革命が起き、今までの常識が、まさに壊れようとしていた時代だ。
ツァラトゥストラは、時代の流れから、当然生まれてくる、新しい価値観であり、いまだに古い体質に囚われている人々へ投げつけた火炎瓶だといえるだろう
- 感想投稿日 : 2021年2月14日
- 読了日 : 2021年2月14日
- 本棚登録日 : 2021年2月14日
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