捨てられる銀行 (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社 (2016年5月18日発売)
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金融庁の方策と影響は素人には判りにくい。高度に専門的であるのと影響範囲が捉え難いからであろう。そうした面で本書は難解ではあるものの、うまく筋道立てて概説されているといえる。金融行政の内幕は通信社や新聞社が得意とするところだ。

まずは批判から。『捨てられる銀行』の題名は言い過ぎだ。地域金融の取組強化は長官交代による方針変更である。森信親金融庁長官の礼賛は提灯記事に見える。かつそうした地域金融を焚き付け体力を奪ったのは他ならぬ金融庁であったのではないか。金融機関に対して検査と指導という強権を持って言いなりにしておきながら、今後は主体的な地域金融連携を尊重する、とはこれ如何に。「金融検査マニュアル」と「信用保証制度」の功罪や意義については総括しているものの、金融庁の行政上の問題点や歴代長官の失敗もしっかり指摘すべきだ。

良い点。元広島銀行の日下智晴氏、元東京銀行の多胡秀人氏、両名の地域金融に対する問題意識と使命感の件は良かった。テーマに対する著者の熱量が取材の深みと文章を通して伝わってくる。また「金融検査マニュアル」と「信用保証制度」についても、新聞や雑誌では現時点から見た批判が主だが、本書では当時の施策必要性と制度的欠陥、期待効果との乖離、そして現時点での経済環境とのミスマッチが丁寧に解説されている点は良い。

純粋なノンフィクションではなく多少金融庁寄りではなるものの、いまの金融行政のあり方と転換を勉強するにはよい読み物である。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ノンフィクション
感想投稿日 : 2016年8月16日
読了日 : 2016年8月16日
本棚登録日 : 2016年8月9日

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