アフター・ヨーロッパ――ポピュリズムという妖怪にどう向きあうか

  • 岩波書店 (2018年8月4日発売)
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ブルガリア出身の政治学者による欧州社会の現状に対する考察。

頁数は訳者あとがき含めて130頁ほどだが、内容は濃い。

欧州共産圏崩壊により、Fフクヤマは「歴史の終わり」と言ったが、EUというより広範囲な後ろ盾があるために、「国」という縛りが希薄になり、地域エゴが先鋭化した。

日本にいると実感しづらいが、アフリカ難民/移民流入の影響は非常に大きいのだろう。
EU諸国の国境撤廃の流れを、正反対の国境封鎖の流れに変えてしまった。

エリート層は国籍に関係なくどの国でも同じようなポストを得られるが故に祖国に対する忠誠心が薄れ、移動の自由度が低い一般層とエリート層との二層分離が進む。
特に中欧ではエリート層・若年層が国外に抜け、人口が減少すると同時に、政府には統治能力よりも国民への忠誠心を求めるようになる。

結局、二度の欧州大戦の反省から誕生したEUとは多分に統一理念に基づく政策実験だったが、理念が先行してしまった故に、大戦の直接の記憶がなくなる中で、「エントロピー増大の法則」にやられつつあるということだろうか。

複数の国民投票の例に見られるように、民主主義を純粋に追及すると衆愚政に行き着く。
経済統合と国家主権、民主主義の三つが同時に成立しないというトリレンマを前提に、三方一両損的現実的な方向に物事を進める知恵をEUが持つか。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2019年7月23日
読了日 : 2019年7月21日
本棚登録日 : 2019年1月15日

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