ポストモダン・マーケティング: 「顧客志向」は捨ててしまえ!

  • ダイヤモンド社 (2005年1月1日発売)
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【読書に要した時間】
11時間6分

【概要】
3C,STP,4Pなどの科学的手法や、顧客第一主義からなる「モダンマーケティング」を批判し、それに代わるポストモダンマーケティングを提唱する書。
書き方が冗長で、非常に理解しにくく、時間もかかる。その意味で推薦出来ないが、内容はMBAで教えられるフィリップ・コトラー的マーケティングの考え方を否定し示唆に富む。
マーケティングが重要な業界(消費財など)の営業・マーケティング職の方や、MBAでマーケティングを習得した方に特にお勧めしたい。慣れ親しんだものとは異なる考え方を知ることが出来る。

グロービス経営大学院の「顧客インサイトとブランディング」という科目の参考図書。

【内容と考察】
●モダンマーケティングとは
以下2点の要素から構成される。

①3CやSTP4Pに代表される科学的、分析的手法(フィリップ・コトラーらによって理論化された)
②顧客第一主義、顧客志向

だが近年、顧客、競合面の理由から、効果的ではなくなりつつある。

(1)顧客:(a)近代的マーケティング手法を顧客も学び、賢くなっている。結果、従来は顧客に「買いたい」と思わせることに成功していた手法も、見抜かれるようになった (b)顧客第一主義で扱われることに慣れ、企業への要求水準が高まり続け、満足させることが困難になっている
(2)競合:多くの企業が実践するようになり差別化困難となった

(考察)
「顧客の要求水準が高まり、満足させることが困難になっている」ことは本当か?
『イノベーションのジレンマ』によれば、顧客の要求水準の高まり以上に、技術革新により企業の価値提供力は高まっているとの考えもある。
→私の実感としては、「以前と比較しある程度の満足を提供することは容易になったが、顧客を熱狂・感動させることが困難になった」のではと感じている。
→であるならば、今後の企業のとるべき戦略は、差別化ではなく、コストリーダーシップに傾く可能性が高いだろう。(様々な商品がコモディティ化していく)
→規模拡大に加え、技術革新をコスト削減に繋げられる企業が生き残るのでは?
現在は差別化に成功しているiphoneも、将来はコモディティ化し、安価スマートフォンにシェアを奪われていくのではと予測させた。

●ポストモダンマーケティングの概要
①科学的側面が弱まり、芸術的・創造的側面が強まる
②顧客志向ではない、誘惑する、欲求不満にさせるなど新たな顧客との付き合い方

これらを実現する手法として、TEASE(後述)が存在する。

※マーケティングとは
「モノを売ることであり、それ以上でもそれ以下でもない」と主張されている。
顧客が本来必要とする以上に、消費させることがマーケティングの本質であるとする考えは性悪的だが、営業現場にいる立場として、共感出来る部分は大いにある。

(考察)
顧客志向を否定する考え方は、大いに納得した。
営業現場において、企業が顧客志向を実現することは困難ではと感じていた。マーケティングの目的の1つに「自社利益の向上」があることは明らかであり、そのために顧客に不利益が生じる場合も存在する(win-winではなく、win-loseを狙うべき局面も存在する)。にも関わらず顧客志向を謳うことは、偽善的側面があり、賢い顧客に見抜かれるのは当然と言える。また、顧客志向により甘やかされ、傲慢になった顧客を愛し続けることは、企業で働く人々にとって苦痛だろう。

●ポストモダンマーケティングの具体的手法
TEASEという5つの手法に分類される。

・Trick(トリック):真実を誇張した仕掛けで売る
例:「残り1点」などと嘘をつき、商品の魅力を高める小売店

・Exclusivity(限定):束の間と欠乏で狂乱させて売る
例:商品の供給量を意図的に制限し、高価格を実現するエルメスのバーキン
限定には、供給量の限定と、供給可能時間の限定という2つの手法が存在する。

・Amplification(増幅):噂になっていることを噂にして売る
例:アパレルメーカーベネトンの、黒馬と白馬の交配を掲載した広告が炎上した
商品やサービスではなく、その広告が話題を呼び更なる広告効果を実現させるために、広告を広告する発想が必要となる。その背景には、あらゆる商品と広告に溢れており、商品を広告するだけでは十分ではない現代の状況がある。

・Secret(秘密):誘惑し追いかけさせて売る
例:ケンタッキーの秘密のスパイスは、ただの塩、コショウ、グルタミン酸から構成されている

・Entertainment(エンターテインメント):想像を超えた驚きと変化の早さで売る
例:象を感電死させるショーで群衆を興奮させたテーマパーク「ルナ」

●モダンマーケティングとポストモダンマーケティングの有効性
どちらの手法も成功例はあり、どちらかの手法が絶対的に優れていることはなく、使い分けることが重要。

(考察)
両手法をどのように使い分ければいいのか?

・顧客志向が有効と考えられる場面
①顧客が、要求が高水準でなく、満足させることが簡単な場合
→先進国では難しく、途上国では機能する可能性大だろう

②競合が、自社と同水準の価値提供を実現出来ない場合
→技術革新などにより、自社の差別化優位性が生じた場合、その優位性を利用し顧客満足を追求すればいい。

・ポストモダンマーケティングが有効と考えられる場面
①顧客が、要求水準が高く、モダンマーケティングを見抜く賢さを持つ場合
→現代の先進国では有効と考えられる。だが、ポストモダンマーケティングが普及すると、顧客はTEASEを見抜き、反応しないようになるとも考えられる。その意味で、ポストモダンマーケティングも、現代の先進国への決定的な解とは言えない。

②競合が、自社と同水準以上の価値提供を実現出来る場合
→正攻法では勝てないので、実際の実力差をごまかせるTEASEが有効となる。
だが競合もTEASEに習熟した場合、この手法も陳腐化すると予想され、やはりポストモダンマーケティングは1手法の域を出ないだろう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: マーケティング:顧客インサイトとブランディング
感想投稿日 : 2016年1月10日
読了日 : 2016年1月10日
本棚登録日 : 2016年1月10日

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