罪の声

著者 :
  • 講談社 (2016年8月2日発売)
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本棚登録 : 195
感想 : 27
5

かねてから読みたかった、誰もが知る事件を題材とした、この本を手に取った。

この本の題材としている「グリコ森永事件」が起こった当時は、著者やこの本の中の主人公と同じく私もまだ小さかったので理解をしていなかったが、関西で起こった大きな事件であること、また馴染み深い”お菓子の会社”の事件である点、そして何より小学校の登下校のルートにある交番の掲示板にいつも貼られていた「キツネ目の男」の薄気味悪さ。
これまで何度も、未解決事件としテレビで放送されてきたので、覚える気などなくとも自然と自分の記憶の中に強烈に残っている。


大枠のストーリーはこうだ。

自営業でテーラーを営む俊也は、亡くなった父の遺品の中から一冊の黒い手帳と一本のテープを見つけた。そしてそのテープに入っていたのは、テレビで何度か聞いたことのある、その事件の犯人が使った子どもの声。

そしてその声は、幼い頃の自分の声だったー。


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「きょうとへむかって、いちごうせんを・・・にきろ、ばーすーてーい、じょーなんぐーの、べんちの、こしかけの、うら」
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というものである。

事実、グリコ森永事件には犯人から警察へのやり取りで、3人の「子どもの声」が使われているらしい。冒頭でも触れたが、当時の子どもたちは著者や私と同年代。今どこで何をしているのだろうか。この本の中のような人生を歩んでいるのだろうか。

ネットで、著者のインタビュー記事を見たが、著者はこの小説のアイデアを既に学生の頃に思いついており、これが書きたいがために小説家になった言っても過言ではないという。当初は当然ながら、筆力がなくかけなかった。大学を卒業して新聞記者の道を選んだのも、この小説のためだということだろうか。兎にも角にも、事件の舞台になった現場にも実際に足を運び、話を聞くなど、それらの著者の実体験がひとつひとつ、物語に現場感・臨場感という命を吹き込んでいる。

これを読み進めて行くうちに不思議な感覚に襲われる。果たしてこれは本当にフィクションを含んでいるのだろうかということだ。ノンフィクションの部分とフィクションの境界線が、読み進めて行くうちにわからなくなり、これは本当は真実ではないのか?著者は実際にこの主人公である「阿久津」そのものであり、真実に辿りついたのではなかろうか。既に時効が故に、また加害者家族に配慮し「小説」という形で世間に発表するにとどめているのではないかと、著者自身を疑ってしまうほど、作中に飲み込まれた。

同年代として、もし私も父の部屋のタンスをあけると一本のテープレコーダーが出てきたとしたら、どのようなリアクションをとるのだろう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2017年7月10日
読了日 : 2017年7月10日
本棚登録日 : 2017年7月10日

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