甘栗と金貨とエルム

著者 :
  • 角川書店 (2006年9月26日発売)
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本棚登録 : 280
感想 : 60
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甘栗晃は高校生。突然事故死したたった一人の肉親である父親の職場=甘栗探偵事務所のあと片付けをしていると、ひとりの小さな女の子が顔を出した。もう探偵はいないと説明するが、失踪した母親探しの依頼を続けてほしいと懇願される。それは父が受けた最後の依頼だった。そうはいってもこちらはただの高校生。だが律儀な彼はできるだけやってみることに…。おもしろかった〜^^。読書のブログお仲間さんから勧められたのを機に、著者&著書名だけで図書館予約したら、届いた本の子供っぽい表紙絵にしばしたじろいだ。だが、臆することなかれ。中身はいたってまっとうなミステリになっている。死んだ父親の残した手帳を手がかりに、探偵の基礎も知らない素人探偵が思考錯誤で謎に挑んでいくというあらすじはまるで、P.D.ジェイムズのアノ名作ではないか!(と思ったらそのことに作中で主人公自ら触れていた)。捜査は父の手帳の文字「美枝子は鍵の中」や、失踪した母親の関係者を辿って証言を得ながら進んでいき、依頼人エルムの母の行方ともう一段隠された謎が明らかになっていく。この過程には結構ヒントが提示されているので比較的フェアな表現になっているのがよい。また捜査の過程で父の仕事仲間だった女探偵たちの助力を得たり、父の死で高校を辞めようと決心している晃に思いとどまらせようとする同級生の友人の思いやりもいい(本筋には絡んでこないけど)。彼らや大人びた態度の依頼人エルム(本名ではない、晃が勝手につけたニックネーム)など、キャラクター自身もなかなか魅力的だ。「ころ」「イタリアンスパゲッティ」「みそかつ」「黒おでん」など、舞台となる名古屋の名物が当たり前の常識として登場するのも自分には馴染みがないが地域色が出ていて面白い。終始爽やかなミステリで好感が持てる。その後に続く期待感も持たせてくれる終わり方も◎。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 国内小説
感想投稿日 : 2010年5月10日
読了日 : 2010年5月10日
本棚登録日 : 2010年5月10日

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