マギル卿最後の旅 (創元推理文庫)

  • 東京創元社 (2002年11月8日発売)
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感想 : 7

ベルファストに消えた老富豪 ロンドン~北アイルランド 
見知らぬ訪問者とコロナ三号を フレンチ警部が追う!

FWクロフツ(1879~1957)は、そもそも鉄道技師である。
それが病気をし、療養中の手遊びに、推理小説なぞを書いてみた。
それが名高き『樽』である。

「『樽』が翻訳された時はすごかった。
周りのミステリファンが皆こぞって読んで、『樽』はいい、『樽』は素晴らしいって、絶賛していた」
70年代にそれを読んだ人から、そんなことを聞いた。
「ただ、私は、なにがいいやらさっぱりわからなかった」

実は私もその口だ。
2010年代に読んではみたが、ピンともツンとも響かなかった。
突然出来した樽の跡を、大の大人が二人、頭を絞り駆けずり回って追っていたように記憶している。

『マギル卿最後の事件』も、それだ。
消えた老富豪の足跡を、大の大人が、頭を絞り駆けずり回って追っていくのだ。
ロンドン警視庁と、アルスター警察の合同捜査で、中心となるのはもちろんフレンチ警部である。
大枠は『樽』と同じでも、こちらは面白かった。楽しんで読んでいた。

ダブリン生まれアルスター育ちのクロフツが、馴染んだ風景を描く。
得意の鉄道で、フレンチたちを行き来させる。

『列車からストランラー港に降り立ってみると、東の空には、華やかな色模様が夜明けの先ぶれをしていた。ホームの寝台車の入り口には、どこにも姿を現わすさっきのボーイがたっていて、「フレンチさま、お早うございます。ご乗車ありがとうございました」と挨拶し、自分の列車の停まっているホームの一番はずれまで見送ってくれた。』 (58頁)

列車の旅はなかなかゆったりしていて、朝には件のボーイが紅茶まで運んでくれる。
うらやましい旅である。

フレンチ警部の私生活は出てこない。
彼はアルコールの問題を抱えていないし、
突然暴力をふるう男でもない。
家族との間に隙間風もふいていない。
安心して読んでいられる。

せっかくあちこち行き来しているのだから、その地の食べ物でも書いてくれたら嬉しいのに、それもない。
ひとこともない。
兎に角、推理だけなのだ。

なにがあったのか?
誰がどのように行ったのか?

アルスター、ベルファスト、キャリクファーガスなどの地名を目にして、嬉しくなってしまった。
馴染みのところなのだ。(『レイン・ドッグズ』『ガン・ストリート・ガール』『トーイン』)
「行ったことはないが馴染みの地」がこうして増えていくのも、海外ミステリを読む楽しみの一つなのである。

読書状況:積読 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年2月3日
本棚登録日 : 2021年10月22日

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