農場にくらして (岩波少年文庫 511)

  • 岩波書店 (2000年6月16日発売)
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本棚登録 : 128
感想 : 8
4

梨木香歩さんのエッセイに登場していて、とても気になって読み始めたうちの1冊。
アリソン・アトリー自身と思われる主人公は、イギリスのダービシャー地方で1884年に生まれている。労働者や使用人を抱えた大きな農家だったことが窺える。
今では考えられないくらい、多くの人や、馬、牛などが農耕を行っていた時代だ。
これより17年前の1867年に、アメリカでローラ・インガルス・ワイルダーが生まれている。時代はだいたい重なるが、アメリカで開拓者の娘だったローラと、イギリスで豪農の娘だったアトリーとは生活がまるで違う。「大きな森の小さな家」では農家の一年が語られるが、その後は一家が落ち着くまで旅が続くからだ。ローラが結婚したのち、ミズーリ州で大きな農場の主人になってからの物語は綴られていない。生活が近いのはアルマンゾの少年時代の物語「農場の少年」だろうか。
さて、スーザンに戻って、物語は古風で、今の子供たちが理解するにはハードルが高いだろう。ローラの物語が受け入れられたのは、テレビドラマになって、その時代を映像で見ることができたからだ。(かなり美化されていたが)
読み始めは冗長に感じられ、特に人物紹介がないため、誰がスーザンの父親なのか、母親なのかが分かりにくかった。(読み進むにつれ理解できる)一家は信心深く、スーザンは宗教色が強い思考を持っている。迷信と言ってしまえばそれまでだが、ここではもっと現実的に考えられていたことがわかる。
スーザンは自然に対する感性も豊かで、たくましい想像力で自然を受け止める。美しさも、恐ろしさも身についていく。アイルランドから出稼ぎにやってくる労働者や、ワクワクするサーカス巡業、定期的に訪れる物売りなどが、外の世界を教えてくれる。
読み進むうち、だんだんと自分がスーザンの世界に引き込まれていくのがわかり、最後は名残惜しかった。
様々なエピソードが、他の創作にたくさん表れる。貴重な作品。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説・人に歴史あり
感想投稿日 : 2023年6月30日
読了日 : 2023年6月15日
本棚登録日 : 2023年6月30日

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