文學界 2015年 2月号 (文学界)

  • 文藝春秋 (2015年1月7日発売)
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感想 : 43
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お笑い芸人“又吉直樹”の純文学小説が収録されたことで、『文學界』創刊以降初めて、出版当日に増刷を決定してニュースにもなった。
その話題作品、又吉直樹「火花」のレビュー。

冒頭───
 大地を震わす和太鼓の律動に、甲高く鋭い笛の根が重なり響いていた。熱海湾に面した沿道は白昼の激しい陽射しの名残を夜気で溶かし、浴衣姿の男女や家族連れの草履に踏ませながら賑わっている。沿道の脇にある小さな空間に、裏返しにされた黄色いビニールケースがいくつか並べられ、その上にベニヤ板を数枚重ねただけの簡易な舞台の下で、僕達は花火大会の会場を目指し歩いて行く人達に向けて漫才を披露していた。
──────

漫才とは何か? 漫才師とは何か? という疑問を抱きながら活動を続ける二人の若手漫才師の世界観を吐露した面白みのある小説だった。

冒頭は情景描写にやや硬い表現が多く、作品世界に入り込むのにやや苦労するが、そこを乗り越え、会話文が多くなってくるとスムーズな文章で読みやすくなり、約一時間半で読了。

「本当の漫才師というのは、極端な話、野菜を売ってても漫才師やねん」
と独特の漫才師論を主張する先輩芸人『あほんだら』の神谷さん。
その考えに共鳴し感化されていく主人公である後輩芸人『スパークス』の徳永。
徳永が神谷を慕う思いと、神谷の漫才にかける熱い思いが最後まで伝わってくる結構な感動作品。

実際の漫才のボケとツッコミのような作中の二人の会話が、なかなか粋だ。

地の文章もしっかりしており、読んでいて違和感は殆どない。
内容が内容だけに、自分の過去の経験などを題材にして書きやすい作品だったとは思うが、一つの小説としての完成度はまずまずの水準に到達しているのではないだろうか。
次作があるのかどうか分からないが、もし出るのなら、また読んでみたいと思わせるような作品だった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ☆その他
感想投稿日 : 2015年1月9日
読了日 : 2015年1月9日
本棚登録日 : 2015年1月8日

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