<亡霊が出てこなくても引きこまれる沼的魅力>
実力派作家スーザン・ヒルが手がけた、揺るがぬ人気を誇るゴシックホラー小説! 完成度の高さから、発表当時から一貫して評価され続けているのは知っていました。読書好きとして一度は読んでおきたかった有名作です。
本作品は、弁護士キップス氏の見習い時代を回想する形式で幕を開けます。遺産整理の仕事で、都会ロンドンを抜け出し遠路はるばる訪ねていったのは、ドがつくほどの田舎でした★ キップス氏が向かうのは<うなぎ沼の館>……世にも奇妙な名で呼ばれる屋敷。この館を話題を出した時だけは、地元住人たちが落ち着かない様子を見せ、嫌なムードが漂います★
そこでは、○○が沼に引きずり込まれるような音や悲鳴が聞こえるなどの怪奇現象が! また、館の周辺では、全身から負のオーラを発する喪服の女がうろちょろ。それでも己を過信していた若きキップス氏が、その古めかしき館で知った故人の秘密とは……!?
何が起きているのか分からないまま引きこまれていく沼的魅力に、ヌルッと(?)はまりました。半分を過ぎても「何となく嫌な感じ」「なぜかわからないけど気味が悪い」という、雰囲気的なもののみで進行するんですね★ にもかかわらず、いくら読んでも少しも飽きない! 著者の並々ならぬ力量によって、すべてが計算されて運ばれていきます。
もっとも、肝心の黒い女の境遇に関心を寄せるべきでしょうに、完全に別のところに気を取られてしまったのを告白しなければなりません。本書で心霊現象よりも私が魅入られたのは、情景描写の素晴らしさでした☆ 空、風、光、霧、草、土、水。天候を鏡のように映し出しながら刻々と変化していく景観を、著者はなんと詩的に表現するのでしょう。自然観察記として一流で、亡霊いなくてもいいかと思ったくらい。
おかげで、私の中では、キップス氏は田舎を虚仮にした態度への報いを受けたのだということになっています(独自解釈)。
- 感想投稿日 : 2023年5月14日
- 読了日 : 2023年5月13日
- 本棚登録日 : 2023年5月13日
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