D坂の殺人事件 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA/角川書店 (2016年3月25日発売)
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感想 : 68
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D坂にある喫茶店で明智小五郎と話していた私。向かいの古本屋の様子がおかしいと駆けつけてみると、店主の妻が絞殺されていた。私は状況証拠から明智が犯人だと推理する。明智が初登場する表題作など5編を収録した作品集。

江戸川乱歩を読むのは小学校で読んだ少年探偵シリーズ以来。表題作や『二銭銅貨』など他作品や解説で知っていたので、満を持して再会できてよかった。短編から長編まで変幻自在。文章の密度、引き込まれる謎など100年近く前の作品とは思えない面白さ。『何者』『心理試験』『地獄の道化師』が好き。

『D坂の殺人事件』
古本屋の妻が絞殺された。入口も出口も誰かが出入りした形跡がなく、電燈にあった指紋は明智のものだけ。明智が出てきたのに犯人?!これ偽物だったりする?!などと翻弄されっぱなしだった(笑) 心理学的なアプローチもあって面白い。真相がわかるとそんな単純なことだったのかと思ったものの、人間同士の事件なんてこの関係に集約されるのかもしれないなとも思えた。

『二銭銅貨』
「あの泥坊が羨しい」という書き出しが秀逸。紳士泥坊が盗んだ賃金5万円。その隠し場所を示すかのような二銭銅貨と暗号の秘密とは?!短いのにインパクト抜群。暗号やそこからの推理にワクワクする。この二銭銅貨の正体って…など深読みしちゃったけど、それもまた遊び心の内なのかなと思うと面白いね。

『何者』
友人の屋敷に呼ばれたある夜に起きた強盗事件。金ではなく金製品ばかり盗んだ理由とは?井戸で消えた足跡、犯人はいったいどこへ逃げたのか。登場人物たちの奇妙な行動が意外な真相へと繋がっていく。まさに何者?!って思ってたら一本取られた感じ。なんとも言えない鮮やかなラスト。

『心理試験』
友人の下宿先の家主が隠し持っていた財産を奪い、その友人に罪をなすりつけた蕗屋。犯罪は上手くいきつつあったが、判事の心理試験に対応すべく四苦八苦する。あちらを立てればこちらが立たずというか、考えるほど泥沼にハマっていくのが皮肉だよね。最後は犯人と一緒にぼくも負けましたって頭を下げたくなる切れ味で見事だった。

『地獄の道化師』
列車に轢かれた石膏像から出てきた女性の死体。そこから始まる道化師による恐るべき連続殺人事件が描かれる。坂を転がり落ちるように移り変わる事件がスリリング。石膏像に埋め込まれた死体、送りつけられる道化師の人形などは不気味で背筋を凍らせる。しかし、それ以上に人間の狂気こそグロテスクで罪深いものだと痛感した。そんな中で明智が口にした罪とその由来についての話は心にじんわりと残る。因果を辿らず、相手を狂人と切り捨ててそこで終わらないために必要なことなのかなと感じた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2021年5月6日
読了日 : 2021年5月6日
本棚登録日 : 2021年5月6日

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