螢 (幻冬舎文庫 ま 3-2)

著者 :
  • 幻冬舎 (2007年10月1日発売)
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感想 : 247
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オカルトスポット探検サークルの学生たちが訪れたファイアフライ館。ここは十年前、作曲家の加賀螢司が6人の演奏家を惨殺した場所だった。事件と同じ日程で組まれた合宿で、惨劇が巻き起こる!

嵐の山荘と化したいわくつきの館で起こる殺人と不可解な現象たち。その一方で、殺人鬼・ジョージによって殺された女子メンバーを巡る謎も。雨のように降り注ぐ現実の中で、聞こえない真実を探すメンバーたち。ホラーな雰囲気に、推理対決や館探索のワクワク感も重なって引き込まれる世界観。

聞こえていない音ほど認識のフィルターをすり抜けて躰を支配しているから危ない、という平戸の言葉が印象深い。巧妙に文章へ隠された音たち。その書く技術にプロの恐ろしさを感じた。そして、現実においても聞こえていない音がたくさんあるのではないか、と耳を澄ませるきっかけにもなった。

最後に印象に残った文章を引用して終わります。幽霊論的な話はとても興味深く読めてよかった。ここもテーマに重なってくるよね。

「化物屋敷は無人でも構わないが、幽霊屋敷は人がいなければ成立しない。俺は幽霊というのは救われたいという心が映す幻像だと考えているからな」
「救われたい……何にですか? 病気や不幸からですか?」
「いや、むしろもっと根元的な意味だ。人は何かしら救われたいと思っているよ。救われるということは、救われるに値する人間だということだからだ。自分が何の価値も意味もない人間だと烙印を押されたくないからね。自分の価値を認めてくれる救い主を求めているわけさ」

「幽霊というのは救われない者の象徴だからだよ。不条理な死に方や妄念を残したりして成仏できずに現世を彷徨っている哀れな存在。そこに救われない自分を投影してしまうんだ。果たして自分は大丈夫なのか? 日頃から疑問を抱き、畏れ悩み、不安を感じていればいるほど、幽霊は見えてしまう」

「だがなホントにヤバイのは聞こえていない音だ。例えば部屋の時計の音がやたらに気になるときと、全く気づかないときがあるだろ。気づかないとき、音は認識のフィルターをすり抜けて、直接脳に働きかけて影響を及ぼしているんだ。だから聞こえていないときほど、実は時計に躰が支配されているんだよ」

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2022年1月3日
読了日 : 2022年1月3日
本棚登録日 : 2022年1月3日

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