ブギーポップシリーズ4作目。亡くなった資産家・寺月恭一郎が建てた謎の建築物“ムーンテンプル”が舞台。訪れた人々は内覧イベント中に建物内へ閉じ込められてしまう。そこで姿を現した“歪曲王”。その能力によって人々は心にある歪みと向き合うことになる。歪んだ塔のような建物の中で巻き起こる、自分の心の歪みとの戦い。
経過していく時間を軸に閉じ込められた登場人物たちの群像劇が描かれる。精神的な戦いが多く、時間によっていいところで場面が飛んだり、ムーンテンプルの構造も想像しづらくて一度ですっきり理解するのは難しい作品だなと。ただ、人の抱える歪みに向き合わせるというテーマ自体はとてもシンプルで読み応えがある。
この物語単体で読むよりは、『ブギーポップは笑わない』を読んでからの方が断然に面白く読めると思う。一作目の続きでもあり、アンサーでもある作品だよね。新刻と早乙女の関係性がそう繋がってくるのかと膝を打った。はっきりしないものが嫌な委員長である新刻が歪みを正そうとするシーンはスカッとしたね。
前回の『パンドラ』ではブギーポップはあまり出番がなかったけど、今回は出ずっぱりでまさにオーバードライブ。新刻との会話もよかったし、咲子との終わりの会話もグッとくる。ここが第一部完なのかなと思わせるシナリオになっていて読みごたえがあった。
あと、ブギーポップのこの言葉が好き。優しい死神。
「その人が優しかったのなら、それは君の優しさなんだ。歪曲王にはぼく同様に─そう、さっき君が言ったとおりに─おそらく主体がない。君の中の歪みが形となって出てきただけだ。と言うことは、君はこれまで自分の優しさを歪ませ続けてきた、ということになる」
「それは決して楽しいことではなかったはずだ。歪んでいることは君をいつも苦しめ続けてきたはずだ。だが─その苦しみの数だけ、実は君は優しい人間だった、ということになる」
- 感想投稿日 : 2019年10月6日
- 読了日 : 2019年1月29日
- 本棚登録日 : 2021年1月10日
みんなの感想をみる