ヒトはなぜ絵を描くのか――芸術認知科学への招待 (岩波科学ライブラリー)

著者 :
  • 岩波書店 (2014年2月5日発売)
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本棚登録 : 270
感想 : 36
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読んだキッカケはahddamsさんのレビュー(3月5週のBestレビュー掲載)で、目的は現在松木武彦さんの本を熟読しているので、「芸術認知科学」とは何か、概略や歴史を知りたかったため。であるが、その目的は達成されなかった。概略は、この本全体で記されている。ちょっと要約できない。

「ヒトはなぜ絵を描くのか?」その問いと答えそのものが、とても興味深いものだった。

ハッキリしたものでは、約4万年前、痕跡を入れるとネアンデルタール人の約5万年前から、ヒトは洞窟に表象絵を描いてきた。しかしながら、DNAの差わずか1.2%のチンパンジー(600万年前に共通の祖先から分かれた)にいろいろ絵を描かせようと試みるも難しいことがわかってきた。そこから「ヒトとは何か」が浮かび上がってくる。

チンパンジーは描かれた表象を見分けることができる。恣意的なシンボルをある程度理解し、扱うこともできる。そして画風があるほどに描線をコントロールして描ける。けれども、顔の輪郭に「目」を入れることさえできない。2歳のヒトは出来るのに、である。

今ここに「ない」ものをイメージして、補う。‥‥想像する力をヒトはなぜ身につけたのか?

小説ではないのでネタバレするけれども、それは言語を手に入れたからだ。面白いのは、そのことによって「失った能力」もあるだろうと推論していることである。それは(この言葉は使われていないが)「カメラアイ能力」である。宮部みゆきが持っていると私が推測している能力、高村薫「レディ・ジョーカー」で合田雄一郎が発揮する能力、である。
私たちは言語を持ったことによって、目に入るものを常にカテゴリー化し「何か」としてみようとする記号的な見方をしている。だから言語を獲得する前の幼児は却って「カメラアイ能力」を持っているのだという。とても興味深い。

子供がよく描く絵の一つに「頭足人」というのがある。頭のすぐ下に足がつく。これは「胴体」という概念が子供には漠然とし過ぎているためだという。そういえば、私、頭足人たくさん描いた覚えがある。突然思い出した。

そういうわけで、洞窟絵画の写実性は際立っている。一方、ヒトは「アート」を創造してきた。何かわからない「何か」をみようとすると、ヒトはアートとして表現する。
「想像」と「創造」はヒトの根源から深く結びついているのである。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: は行 ノンフィクション
感想投稿日 : 2023年10月4日
読了日 : 2023年10月4日
本棚登録日 : 2023年10月4日

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コメント 3件

ahddamsさんのコメント
2023/10/04

kuma0504さん、こんばんは。
絵を本格的に頑張ってみようと思った矢先に出会ったのが本書で、(現在進行形で)絵を描く側として読み進めていました。「カメラアイ能力」は備わっていればきっと便利なものに違いありませんが、自分が見た美しいものを瞼の裏に思い描きながら描く行為も素敵だなと読んでいて思いました。(私の力ではやっぱり実物がないとちゃんと描けませんが泣)
見えないものを想像しながら、自分の手でそれを創造するのも進化を経た人類に与えられた特権なんですね。
今回お役に立てず申し訳ありませんでしたが汗、熟読してくださりとても嬉しいです(^ ^)♪kuma0504さんのレビューを拝読し、芸術認知科学について本書以外でも踏み込んでいきたいと思いました。ありがとうございます!

kuma0504さんのコメント
2023/10/05

ahddamsさん、とっても興味深い本を紹介してくれてありがとうございました♪

認知科学について、一言で語る言葉を見つけきれなかっただけで、本全体で、とってもよくわかりました。

実際、弥生時代から日本各地に作られてゆく墳墓は、それまでなかったものから想像、創造して作られたものです。そのひとつひとつに物語があったはず。なんか、わたしにもつくることができる。だってヒトなんだから。そういう気がしてきました。

ahddamsさんのコメント
2023/10/05

kuma0504さん、おはようございます。
そのように仰っていただいてとても嬉しいです(*'▽'*)
弥生時代の墳墓…確かにそうですね!
ずっと「クリエイティブ」という特別感のあるワードに気後れしていましたが、人間誰しも何もないところから何かを創造できる。それを心底感じさせる良書でした…!

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