雪 (岩波文庫 緑 124-2)

著者 :
  • 岩波書店 (1994年10月17日発売)
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炎暑である。そんな日にやっと読めた。高野文子「ドミトリーともきんす」という読書案内漫画で紹介されていた本の第一弾である。

一つ気がついたのは、やはり私の頭は理系ではない。詩的な或いは散文的な文章が多いところは、すらすらと読めるのだけど、いったん科学理論的な文章になるとなかなか進まなかった。

(すじ雲やうす雲などの上層雲は)日本では一万米以上のことが多い。かかる上層の雲は水晶であるということは前に述べた通りである。されば、夏の日地上のわれわれが炎暑に苦しめられてあえいでいる時、上層を流れる白雲の世界は零下十度あるいはずっとそれ以下の寒冷の大気に充ちているのである。(69p)

さて、雪は高層において、まず中心部が出来それが地表まで降ってくる間、各層においてそれぞれ異なる生長をして、複雑な形になって、地表にたっすると考えなければならない。それで雪の結晶形および模様が如何なる条件下で出来たかということがわかれば、結晶の顕微鏡写真を見れば、上層から地表までの大気の構造を知ることができるはずである。そのためには、雪の結晶を人口的に作ってみて、天然に見られる雪の全種類を作ることができれば、その実験室内の測定値から、今度は逆にその雪が降った時の上層の気象の状態を類することができるはずである。
このようにみれば雪の結晶は、天から送られた手紙であるということが出来る。そしてその中の文句は結晶の形及び模様という暗号で書かれているのである。その暗号を読みとく仕事が即ち人口雪の研究であるということも出来るのである。(162p)

「天から送られた手紙」という文句だけが一人歩きして、単なる「詩的な言葉」であると思っていた人が多い(←私か)と思うが、実はかなり「科学的な言葉」であり、かつ、「科学の社会的な役割」を意識した言葉でもあったのだ。それは、この本の第一「雪と人生」で、「アメリカへ支払うラッセル車一台の購入費を投げ出して、日本に降る雪の性質を根本的に研究したならば、日本のために真に役立つ除雪車は必ず出来るに違いない」(31p)と書いているのに繋がる。

人間的な科学者がここに居る。
2015年8月読了

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: や行 ノンフィクション
感想投稿日 : 2015年8月6日
読了日 : 2015年8月6日
本棚登録日 : 2015年8月6日

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