ひとつの法律が成立するだけで、いつのまにか社会は「健全に」いっぺんする。90年代の終わりに派遣法が成立して格差拡大が「当たり前」になった。10年代に秘密保護法・共謀法が成立して、社会の奥で何が行われているか見えなくなった(例えば宇宙軍拡)。本書とは関係ないけど、私はそう思っている。
閑話休題
礼和四年「動物福祉法」及び「動物虐待の防止等に関する法律」成立
麗和六年「酒税法及び酒類行政関係法令等解釈(通称どぶろく通達)」成立
冷和二十五年「南極条約の取り扱いに関する議定書(通称・南極議定書)」成立
隷和五年「労働者保護法」あるいは「アンバーシップ・コード」成立
零和十年「通貨の単位及び電子決済等に関する法律(通称・電子通貨法)」成立
例和三年「健全な麻雀賭博に関する法律(通称・健雀法)」成立
という法律が成立したパラレルワールドの日本を描いた短編集である。
作者は元弁護士なので、1話目での猫の山本ココアを「原告」とする訴状なんてリアルそのもの。仮定の世界なので、どちらかというとSF的なお話が多いし、それがとても面白いのだから、作者のフィールドはミステリだけではないことを示したという意味では大きな曲がり角の作品になったのかもしれない。(ただ、最後のプロ雀士が出てくる話だけは、作者が元雀士だった経歴を活かしているのだろうけど、専門用語が多すぎてついていけなかった)
その中で殺人事件も起きて1番ミステリな話になっているのは、4話目の「健康なままで死んでくれ」。労働法をテーマにした話は、ほとんど聞かないので珍しかった。私はボランティアで労働相談をしている。なんか聞いたような話がたくさん出てきて、(嫌になった)興味深かった。
はっきり言って、この隷和五年「労働者保護法」は労働者保護に全然なっていない。そういえば、現状の平成27年改正労働者派遣法も、派遣労働者は3年以上働いたら正社員待遇にする事になったはず。これによって派遣社員に正社員の道が開かれたわけではなく、3年ごとに契約を打ち切る方向に企業は舵を切った。法改正にはたいてい建前の裏に本音が隠されている。隷和の過労死を防止するための法律は、労働者にリストバンドを強要し、日常の全てを管理させる。結果、労働者は以前よりも疲れるようになるけど、「会社の外で」「突然死」するのならば会社に責任はないからスルーされる。あ、そうそう某国でも「働き方改革」というやり方で残業削減したけど「成果」は同等のものが求められるから、社員は「工夫して」成果を出している人たちがたくさんいるということも聞いた。どの国とは言いませんが。
あ、読み直すと、現実と本書の感想をごちゃ混ぜにして書いてますよね。ごめんなさい。
でも、それこそが、この本の感想なのです。
- 感想投稿日 : 2023年4月16日
- 読了日 : 2023年4月16日
- 本棚登録日 : 2023年4月16日
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