萩尾望都を買わなくなって20年以上が過ぎている。今回「ポーの一族」新章を読んだ勢いで買ってみた。絵柄は少し変わっているが、紛れもなく萩尾望都だった。
作品的に最も気に入ったのは「なのはな」である。雑誌の2011年8月号に掲載されたので、少なくとも5月にはペン入れをしたはずだ。少女漫画では、最も早い時期に発表された「原発事故漫画」だろう。しかし、内容は事故の1年後の福島になっている。萩尾望都らしく、主人公の見る夢は距離と次元を超えてゆくが、内容は極めてリアルに描かれた。その後に継続して掲載された原発事故漫画を見ると、著者がなみなみならぬ熱意でこのシリーズを描いているのがわかる。私は20年の中断を反省した。
萩尾望都は、そのデビュー当時から「世界が終わる予感」について描いてきた作家だった。「終わり」は戦争や原発事故だけを意味しない。それは友情や恋も時には宇宙の終わりも、同じスケールで描かれるだろう。だから、彼女の反原発の姿勢は100%明らかではあるが、テーマはそれだけではないのである。
ばーちゃんは消えた。津波で。
秀才の兄は言う。
「じいちゃんの中ではばーちゃんのことは、時間が止まってんだよ」
「ナホ もう6年生だべ。ナホは時間を止めではダメだ。いま起こってっことを、ちゃんと見ねどなんねぞ」
世界は一度終わった。
ナホは、「ばーちゃんの種まき器」を持って、時間を進めるだろう。漫画は、世界の解釈をやすやすと飛び越えて、時が進みだす瞬間を、説得力持って我々に示す。
続く、放射性物資を擬人化した「プルート夫人」「雨の夜ーウラノス伯爵」「サロメ20××」は、まるで演劇作品のようだ。是非本物の上演をみたいものだ(高校生演劇で演ってみてはどうだろう)。
確か、前にも一度萩尾望都は大ファンの甲斐よしひろの唄を原作に作品を描いたことがあったが、今回新装版に特別収録された「福島ドライヴ」は非常に完成度が高かった。唄は何度も聴くもので、漫画も何度も読むもの。親和性は高い
- 感想投稿日 : 2016年6月24日
- 読了日 : 2016年6月24日
- 本棚登録日 : 2016年6月24日
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