銃を置け、戦争を終わらせよう 未踏の破局における思索

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  • 毎日新聞出版 (2023年7月31日発売)
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感想 : 11
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2021年6月~2023年6月までの時事をとりあげた週刊誌連載のコラム集。ウクライナ紛争が最も大きな事件でありこの書籍名なのだが、これだけを深く掘り下げていくものではなく、アフターコロナ、オリンピック談合、敵基地攻撃能力保有、入管法改正、LGBT理解増進法、こども家庭庁、原発再稼働、食糧危機などを切り口に、政府や官庁、財界など、社会の支配層の行いに向けて舌鋒鋭く切り込んでいくものだ。著者はこういった社会時評を途切れることなく著し続けているが、文章を世に送るのは作家だからだとしても、社会の支配層に対して常日頃監視を怠らないのは、それが市民としての責務であるからと考えているからだろう。ともすれば上のものに従うことが美徳という慣習の強い日本人ではあるが、指導者を選ぶと同時に指導者の行いを監視し、誤っていることがあれば批判もする、それこそが民主主義の本質であり、著者はそのことを同じ市民であるわれわれ読者に自ら行動で示しているのだ。しかし初期の頃の時評集と比べると、本作には著者が社会に向けて抱いている無力感のようなものを強く感じてしまう。それは人間の社会の運営が限界にきていること自体による無力感というよりも、国内では安倍元総理以降顕著になった詭弁と強弁がまかりとおり、憲法違反のような事案を閣議決定で決めて押し通すことが可能になった国会の死であり、海外では国連の安全保障理事国の常任理事国当事者が戦争をおっぱじめ誰にも止められないという、議論の死、道理の死という現実にこそあるのではないかと思う。つまり道理が崩壊した世界にあって、物書きが理性に訴えるという行為に対する無力感のようなものを感じるのだ。人間同士が理性で分かり合えないなど世も末であるが、これまでの歴史の中で人類は何度となく「世も末だ」と言ってきたわけだ。いつかは変わることができると信じて、読書などを通じて知見を深め問題意識を持ち、著者と同様に社会へのまっとうな批判精神を持ち続けていきたいと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 社会時評
感想投稿日 : 2023年11月23日
読了日 : 2023年11月23日
本棚登録日 : 2023年11月23日

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