風にのってきたメアリー・ポピンズ (岩波少年文庫 52)

  • 岩波書店 (2000年7月18日発売)
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映画版はミュージカルだったそうだが、そのイメージで読むと、意表を突かれるかもしれない。
意外と言ったら失礼なのだろうが、現実を忘れられる夢のようなファンタジーというよりは、ファンタジー要素すら、現実なのかもしれないと言わしめるような、超現実的なお話だと、私には思われた。

桜町通り十七番地に住む、バンクス一家の子どもたち(ジェイン、マイケル、双子の赤ん坊ジョンとバーバラ)の世話をするためにやって来た、「メアリー・ポピンズ」だが、私の第一印象は「愛想の無い人」だった。

まず、子どもたちの世話をするという、それは仕事としてお給料を貰うわけだから、子どもたちの前でも平気で、きつい顔や目を見せたり、忙しいときや不機嫌なときはフフンと鼻をならしたり、ましてや、子どもたち自身に、「よっぽど気をつけていないと、どんなことにでもすぐ気を悪くする」と気を遣われるようでは、さずかに駄目なのではないかと思った。

しかし、物語を読んでいく内に、そんな私の印象は少しずつ変わっていき、機嫌が悪いように思われる場面が多い中でも、彼女の人間性はそれだけではなく、嬉しいときには「うわあ、すてき!」と言ったり、お店のショーウィンドーに映る自分の姿に惚れ惚れとする、オシャレ好きな一面や、クリスマスのあの場面では「まさかの涙!?」なんてこともあったりと様々で、時に、魔法のような奇跡を起こしてみせるメアリー・ポピンズも、他の人となんら変わる事のない、この星の一部であることを実感させられた事で、序盤に登場した、この台詞が、より鮮明に私の脳裏を過るのだった。

『だれだって、じぶんだけのおとぎの国があるんですよ!』

さすがに物語の終盤に来ると、私もメアリー・ポピンズは反面教師なのではないかと思うようになったが、もしかしたら、それすら間違っていたのかもしれないと今では実感し、それは反面教師では無く、ただ単に、子どもと大人の関係というより、子どもだろうが大人だろうが、同じ星に生まれてきたものとして、対等な関係を築こうとしていただけなのではないかと。

私は、ここまでの文章に於いて、二度、星を使った表現をしたが、序盤に書いた「超現実的なお話」というのが、実はこの『星』と繫がっており、思わず、以前読んだ、芳賀八恵さんの「星の子」に記載されていた、『私たちの身体は、星でできているらしい』を思い出した。

ただ、ここでいう『私たち』というのは、人間だけでなく、当然、太陽も月も海も大地も植物も動物も含まれている。


この物語では、超現実的なと書きつつ、夢のようなファンタジーのような現象もたくさん登場する。

しかし、そこで問い掛けられているのは、うわあ、素敵で楽しい事だねと思える一方で、普段見ている世界とは正反対であったり、あべこべであったり、逆さまであったりと、どれも似たようなものだが、要するに、『世の中に「絶対」なんてものが存在すると思い込むのは、この世界で生きているのが人間だけだと思っているから』なのではないかということである。

それは、ラークおばさんが可愛さのあまりに服を着せている、犬のアンドリューにも自分の意志があることから、生まれてきたばかりの赤ん坊の頃だけ、周りの自然や動物たちの言葉を理解出来るのは、生まれてきた原初の地が同じだからという、そんな切なさの極みのようなことまでと、様々で、メアリー・ポピンズが、子どもたちに質問の答えを簡単に言わないのも、子どもたち自身に、そんな二度と戻れない最果ての、この星に生まれてきたばかりの頃の、真っ新な気持ちで、あらゆる物事を考えて欲しかったからではないかと、私は思うのである。

そして、そんな素敵な体験を重ねることで、身体というよりも、心が大きく成長した子どもたちの様子からは、たとえ、メアリー・ポピンズがどんなにブスッとした顔をしていようが、その内面を慮り、ちょっとした仕種だけで、彼女の素の一面を見出す事が出来るくらいの信頼を寄せるようになったからこそ、最後の場面は子どもたちにとって、非常に辛いものがあったと思う。

しかし、メアリー・ポピンズの更なる一面として、『彼女がすると言ったことは、必ずする』ことを、その時、マイケルは思い出した。

そして、「オー・ルヴォアール」という言葉には、『さようなら』という意味の他に、
『また会いましょう』という意味もあることを。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 海外児童書
感想投稿日 : 2023年6月16日
読了日 : 2023年6月16日
本棚登録日 : 2023年6月16日

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