書店員歴10年の32歳、「土田新二」の表向きの優しい素顔とはまた別にある、人生への漠然とした不安を抱えながらも、自分自身の道を見出していく展開には、同じ作者の『すーちゃん』の男性版を思わせる雰囲気があり、きっと共感出来る方もいるのではないかと思います。
また、書店を舞台とした中で、物語と上手く結び付けて、実際に存在する本を紹介される点や、大人から見た絵本の素晴らしさを改めて実感させてくれた、土田の後輩の台詞といった、本の良さを教えてくれる展開も印象的であることに加え、土田自身の打算的ではない、彼の人柄を感じさせる数々のエピソードには温かいものがあり、特に家族に対する、彼の姿には、涙を誘われるものもあったからこそ、あの場面だけは何故と思わずにはいられなかった。
最初、その場面を見たとき、我が目を疑いました。その後、何度も見直したり、もしかしたら、私が借りたのが第1刷だから、以降は差し替えているのではないかとも思いましたが、その真相は分からないままで、いずれにしても、その場面で全てが台無しになったように私には思われました。
おそらく私の予想として、どうしても書店員ならではのやり方で、お見送りをするような描写をしたかっただけなのかもしれませんが、それでも、当たり前のような顔をして、会社の道具を使って私物に何かをする行為には解せないものがあったし、それは理由によって許されるとか、個人の道徳心の問題であるのかもしれませんが、大切な人への思いがあったからこそ、そこは自分なりのやり方でして欲しかったし、こうした事をやってもいいんだと誤解を招きかねない描写は、如何なものかと思ったのが、とても残念です。
- 感想投稿日 : 2023年8月23日
- 読了日 : 2023年8月23日
- 本棚登録日 : 2023年8月23日
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