海 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2009年3月2日発売)
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本棚登録 : 2947
感想 : 300
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短編は短い妄想だと、著者インタビューに書いてあり、その果てを知らない妄想には、私の想像力など全く及ばない。だから、ついつい読み耽ってしまう。

「海」というタイトルを見て、こういう話ではないかと、なんとなく想像してみたが、かすりもしないのは、そりゃそうであって、小川さんの述べる「その世界でしか生きられない人たち」を、「そうではない人」と触れ合うことで生まれる物語は、おそらくささやかな出来事であっても、お互いにとって、大切なものになったのではないかと思ってしまう展開が素晴らしくて、「ひよこトラック」の中年のドアマンと無口な少女もそうだし、「ガイド」の僕と題名屋の老人もそう感じました。ガイドは、タクシーの運転手も良い味出してて好き。

また、それとは別に、「風薫るウィーンの旅六日間」の終わり方がまた印象深く、ものすごく厳かな雰囲気の中に、突如訪れるコメディ的な要素が、何とも言えない感じで良かった。まさかと思ったけれど、これはこれで良かったよねって。

そんな他の人にとって、どうでもいいようなところにも目を向ける小川さんの人柄は、インタビューを読んでもすごく興味深く、下記の言葉が特に心に残りました。

「たとえ本というものが風化して消えていっても、耳の奥で言葉が響いている・・・そんな残り方が、私の理想です」

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2021年7月3日
読了日 : 2021年7月3日
本棚登録日 : 2021年6月27日

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