表題作と、「ちょうちょう」以外は、家族をテーマにした短篇集で、一見、問題があるような人にしても、かつて過去に負った傷であったり、心の奥に仕舞い込んだ思いがあったりと、一筋縄ではいかない、人間の奥深さを丁寧に描いてあるところに、加納さんの温かな眼差しを感じました。
特に、「パズルの中の犬」と「ポトスの樹」は印象的で、「恐れとは信用しないこと」という言葉に、はっとさせられるものがありました。
また、「シンデレラのお城」や、「セイムタイム・ネクストイヤー」の、現実と虚構が入り乱れるような、当事者のみが知る心中の物語には、やや引いてしまう感覚もあったが、大事なのは、当人たちがそれで幸せだと実感するかどうかだと思い、その幸せを当人だけでなく、周りの人たちが共に築いていく様には、幸せの在り方を考えさせるものがありました。
それから、異色だったのが、「バルタン最期の日」で、ザリガニを擬人化させて、とある家族を見守る物語なのですが、バルタンのネーミングセンスや、母親のダジャレが飛び交う、加納さん特有のユーモラスな雰囲気が漂う中、実はその真意が、この短篇集で最も胸を打つものがあり、人って、こんな状況でも周りの人たちを思いやることができるんだなと、感動を覚えましたし、私の人生で初めてザリガニのことを愛しく思いました。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
小説
- 感想投稿日 : 2022年2月8日
- 読了日 : 2022年2月8日
- 本棚登録日 : 2022年2月8日
みんなの感想をみる