「本当はちがうんだ日記」に続く、歌人の「穂村弘」さんの、いつものやつで、現実と妄想と彼の願いとが入り混じった日記風の内容は、どれなのか分からない曖昧さが魅力であるのに、巻末の文春文庫の最新刊紹介では、「短歌の鬼才の爆笑偽日記」と書かれていて、はっきり偽と書くなよと思いましたがね(笑)
しかも、全部が全部、偽だとは思えないのに(「推薦本」の平井和正の死霊狩りは、たぶん本当)。
ただ、今回はあまり私のツボにハマらなかったというか、「ふ~ん」って感じでさらっと読めてしまったものが多く、その理由は、長嶋有さんの「偽ょっ記(解説に代えて)」において(名久井直子さんのイラスト可愛い)、『他のエッセイよりも更に俗な気がする』や、『天使というのがまた、俗に対する清らかそうな存在として、なんだか手近すぎやしないか』に肯けるものがあり、穂村さんは独身の頃の方が、実は凄かったのではないかと感じ、初期のエッセイの衝撃的な内容に比べれば、とてもまともになられたんだなと、変な感慨を抱いてしまいました。
しかし、それでも穂村さん独自の繊細な感性に共感できる部分もあり、「クワガタ捕り」の、『子供には、徒労とか無駄とか虚しいとかみじめとかいう感覚がないのだろうか』には、確かに『懐かしさ以上の眩しさを感じる』ことで、子供時代のキラキラした素晴らしさを実感されているし、他にも、「電車の子供」や「真夜中の先生」、「ピアノ」等には、穂村さんの絵本好きの一面が覗えるし、「セイロガン」は、子供心のやり切れない叫びが聞こえそうで、臭いなかにも切ないものを感じさせられました。
また、穂村さんの本好きのエピソードである、「科学クラブ」、「夏期學習帖」、「女性百科宝鑑」には、穂村さんの本に対する向き合い方が垣間見えて、興味深いのですが・・・ただ、全部本当なのか気になって、夏期學習帖の問ひの一つ、「織田信長の功績(てがら)を書きなさい」の答へが、「信長の死」。
うーん、上手すぎる気もして、穂村さんの答えかもと迷ったり、その後の問ひの答へが「バナナ」なのは、ほぼ確実に嘘だと思えそうですが、大正十五年ならあり得るかもしれないとか思ったり、こうした推測のさせ方に、穂村さんの、人間に対する多様な見方や、一筋縄ではいかない面白さを感じさせられて好きです。
人間の面白さといえば、名久井さんのヒートテックもそうですし(あの名久井さんがというよりは、これぞ人間だと思える)、彼女の表紙の数字のデザインには密やかな喜びが滲んでおり、また、フジモトマサルさんのイラストの「ヤブイヌ」について、実は穂村さんの、あるイメージを表しているそうで、実際にネットで見てみると、つぶらな瞳が可愛らしくて、足が短いのはあまり気にならず、寧ろ、愛嬌のある個性に感じられました。
しかし、本書のヤブイヌは、もう少し酸いも甘いもかみ分けてきた、大人の熟練さを感じさせられて、独特の雰囲気を醸し出しているのが印象的でした。それでも汗をかいてる姿は、そのまま穂村さんのようで、面白かったですけどね。
- 感想投稿日 : 2023年3月8日
- 読了日 : 2023年3月8日
- 本棚登録日 : 2023年3月8日
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