水族館の殺人

著者 :
  • 東京創元社 (2013年8月11日発売)
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本棚登録 : 731
感想 : 117
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本書は『裏染天馬』シリーズ第二弾にあたり、前作の「体育館の殺人」から、約一ヶ月後の夏休み中に起きた事件を扱っており、初めて彼の事を知った、『放課後探偵団2』収録の「あるいは紙の」が、ちょうど本作の後の設定だったので、ようやく時間軸が繫がって、なるほどね~といった、嬉しい心境であります。

ちなみに、「あるいは紙の」は、向坂や倉っちファンには必読の内容となっておりますので、興味のある方は是非。

そして、「水族館の殺人」ですが・・・元々、高校生を中心とした、若さ漲るノリの良さが特徴のシリーズだけに、既にふざけてる感のある、最初の登場人物紹介で躓く方もいらっしゃるかもしれませんが、私は、割と青崎さんのノリが合うというか、嫌いじゃなくて、何というか、ライトまでは行かないライトな感じの心地好さというのかな。高校生って馬鹿だなって思うけど、だからこそ、心に留まるものもあるよねといった、その時だけのキラキラした感じに惹き付けられるんですよね。

例えば本書ですと、天馬にとって、心の右腕的存在になったようにも思える、「袴田柚乃」の、卓球部の交流試合に於ける、前作ではあまり見られなかった、彼女の中で譲れないものの中に垣間見られる、その人間性を知ることで、彼女の天馬に対する接し方や、彼女の憧れる卓球部の部長、「佐川奈緒」との共通点に納得出来るものがあって、そこに青春の持つ、後先を考えないけれど自分は持っていたい、そんな真っ直ぐな思いを、時に羨ましい気持ちで眺めている私がいる事を実感出来るのは、このシリーズが推理ものだけでは無くて、青春の素晴らしさも同時に描いているからだと思っており、私は、そんな青崎さんの高校生グラフィティに、年の差を感じない共感めいた雰囲気があるのが、とても好きなんです。まあ、このシリーズだけではありませんけどね。

それから、肝心の事件についてですが、このシリーズの特徴である、被害者の衝撃的な見せ方に反して、事件を解き明かしていく過程は、とても渋く地味である点にも、私は惹かれており、前作は割とツッコミ所の多かった論理的展開も、今作は練り上げた印象があり、華やかな水族館を舞台にしながらも、基本的な謎は、現場のこと細かい疑問点と、数少ない証拠品の推敲だけで勝負している潔さに加えて、一見、関係なさそうな、卓球部の交流試合でのやり取り等に巧みに含まれた伏線も効果的で、それらの地味でありながらも、確実に容疑者を一人ずつ減らしていく天馬の論理的思考には、読んでいて、ワクワクするものがあり、しかも前作とは違い、天馬自身、何度も悩み苦しみながらの結果である点に、物語としての面白さも感じられたのが良かったと思います。

更に今作では、天馬のパーソナルな内容が少しずつ明らかになっている点に、今後のシリーズのポイントがあると思い、妹の「鏡華」の、まともそうで、ぶっ飛んでいそうなキャラクターも印象的だが、やはり、天馬の普段見られる、アニメ以外への無関心で無気力な生活ぶりとは真逆な、エンディングでの別の素顔が前作でも気になっており、確かコメント欄で、敢えてヒール役を被るスタンスであるとか、彼ならではの正義感と優しさがあるような書き方をしたと思うのですが、今作を読んだ事で、それはまた違う印象へと変わり、そこには、これまでの彼自身の人生に於ける、どうしようもない葛藤や壁のようなものがあって、その真実性を確認するための行動だったのではないかと感じ、推理ものと青春ものとは別に、彼自身の物語にも注目していきたい、私にとって、今後も読み続けていきたいシリーズです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2023年5月5日
読了日 : 2023年5月5日
本棚登録日 : 2023年5月5日

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コメント 4件

111108さんのコメント
2023/05/05

たださん、こんばんは。
いつもながらたださんの深い考察になるほど〜となりました!体育館よりも天馬くんの推理のキレが感じられた上、このわちゃわちゃ感が私も楽しく思えました。『あるいは紙の』も早く読まなくては♪

たださんのコメント
2023/05/06

111108さん、おはようございます。
コメントありがとうございます(^^)

論理的展開も読み所ですけど、天馬だけではない、高校生達の織り成す、ごくありふれた楽しいやり取りに感じさせられる仲の良い、わちゃわちゃ感、私も好きです。
それから、天馬と向坂とはまた違った、天馬と柚乃の今後も気になりますね(*^_^*)

akikobbさんのコメント
2023/05/06

たださん、111108さん、こんにちは。
水族館、未読(というか読み始めたものの並行読書し過ぎて、まだ水族館に向かっているあたりで止まっている)なのですが、読むのが楽しみになる素敵なレビューですね。
「年の差を感じさせない共感めいた雰囲気」、という言葉もいいですね。読む時に、別にジャンルにこだわる必要はないのですが、あのライトな感じに対してつい「ティーン向けなのかな」「ライトノベルなのかな」というような考えが頭をよぎるのですが(だったら読みたくないという意味ではないのですが、おや、ノリが違うぞとは思う)たださんのレビューを読んでからだと、その違いを超えてより共感できる自分になれるような気がしました。

たださんのコメント
2023/05/06

akikobbさん、こんにちは。
コメントありがとうございます(^^)

「水族館」、読み始めたところなのですね。是非とも楽しんで下さい。前作以上に、会話のやり取りも面白いですし、共感めいた雰囲気については、私の場合、部活の存在もあるのかもしれなくて、柚乃の卓球部って、何か絶妙な感じを、今回受けました。前作はそうでも無かったのですがね。
ただ、天馬達のユーモラスなやり取りには、賑やかで今風な言葉も出て来ますが、決して不快とは感じないのが、いいのかもしれませんね。

嬉しい事を仰って下さり、ありがとうございます。
akikobbさんのレビューも、是非、楽しみにしてますね(*^_^*)

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