本書は『裏染天馬』シリーズ第二弾にあたり、前作の「体育館の殺人」から、約一ヶ月後の夏休み中に起きた事件を扱っており、初めて彼の事を知った、『放課後探偵団2』収録の「あるいは紙の」が、ちょうど本作の後の設定だったので、ようやく時間軸が繫がって、なるほどね~といった、嬉しい心境であります。
ちなみに、「あるいは紙の」は、向坂や倉っちファンには必読の内容となっておりますので、興味のある方は是非。
そして、「水族館の殺人」ですが・・・元々、高校生を中心とした、若さ漲るノリの良さが特徴のシリーズだけに、既にふざけてる感のある、最初の登場人物紹介で躓く方もいらっしゃるかもしれませんが、私は、割と青崎さんのノリが合うというか、嫌いじゃなくて、何というか、ライトまでは行かないライトな感じの心地好さというのかな。高校生って馬鹿だなって思うけど、だからこそ、心に留まるものもあるよねといった、その時だけのキラキラした感じに惹き付けられるんですよね。
例えば本書ですと、天馬にとって、心の右腕的存在になったようにも思える、「袴田柚乃」の、卓球部の交流試合に於ける、前作ではあまり見られなかった、彼女の中で譲れないものの中に垣間見られる、その人間性を知ることで、彼女の天馬に対する接し方や、彼女の憧れる卓球部の部長、「佐川奈緒」との共通点に納得出来るものがあって、そこに青春の持つ、後先を考えないけれど自分は持っていたい、そんな真っ直ぐな思いを、時に羨ましい気持ちで眺めている私がいる事を実感出来るのは、このシリーズが推理ものだけでは無くて、青春の素晴らしさも同時に描いているからだと思っており、私は、そんな青崎さんの高校生グラフィティに、年の差を感じない共感めいた雰囲気があるのが、とても好きなんです。まあ、このシリーズだけではありませんけどね。
それから、肝心の事件についてですが、このシリーズの特徴である、被害者の衝撃的な見せ方に反して、事件を解き明かしていく過程は、とても渋く地味である点にも、私は惹かれており、前作は割とツッコミ所の多かった論理的展開も、今作は練り上げた印象があり、華やかな水族館を舞台にしながらも、基本的な謎は、現場のこと細かい疑問点と、数少ない証拠品の推敲だけで勝負している潔さに加えて、一見、関係なさそうな、卓球部の交流試合でのやり取り等に巧みに含まれた伏線も効果的で、それらの地味でありながらも、確実に容疑者を一人ずつ減らしていく天馬の論理的思考には、読んでいて、ワクワクするものがあり、しかも前作とは違い、天馬自身、何度も悩み苦しみながらの結果である点に、物語としての面白さも感じられたのが良かったと思います。
更に今作では、天馬のパーソナルな内容が少しずつ明らかになっている点に、今後のシリーズのポイントがあると思い、妹の「鏡華」の、まともそうで、ぶっ飛んでいそうなキャラクターも印象的だが、やはり、天馬の普段見られる、アニメ以外への無関心で無気力な生活ぶりとは真逆な、エンディングでの別の素顔が前作でも気になっており、確かコメント欄で、敢えてヒール役を被るスタンスであるとか、彼ならではの正義感と優しさがあるような書き方をしたと思うのですが、今作を読んだ事で、それはまた違う印象へと変わり、そこには、これまでの彼自身の人生に於ける、どうしようもない葛藤や壁のようなものがあって、その真実性を確認するための行動だったのではないかと感じ、推理ものと青春ものとは別に、彼自身の物語にも注目していきたい、私にとって、今後も読み続けていきたいシリーズです。
- 感想投稿日 : 2023年5月5日
- 読了日 : 2023年5月5日
- 本棚登録日 : 2023年5月5日
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