いたずらきかんしゃちゅうちゅう (世界傑作絵本シリーズ)

  • 福音館書店 (1961年8月1日発売)
3.62
  • (100)
  • (92)
  • (168)
  • (30)
  • (8)
本棚登録 : 1800
感想 : 130
4

 バージニア・リー・バートン、最初の絵本(1937年)は、手描き風のラフな質感であるからこそ、モノクロでありながらも、機関車や人々の活き活きとした躍動感を、その機関車「ちゅうちゅう」の、勢いに溢れたスピード感も加わることで、よりダイレクトに描ききった、乗り物好きの子どもにはたまらない爽快な作品となっております。

 また、それぞれの見返しには、唯一カラーで描かれた、これまた手描き風の、お話の舞台の全体地図が載っており、本編のこのシーンはどこなのかな、と確認出来る楽しみもあって、読み聞かせを終えた後に、改めて振り返ることが出来るといった、再読したくなる構成も素晴らしいです。

 それでは、実際にどんなお話なのか、読んでみましょう。


 その真っ黒くてピカピカと光る、綺麗で可愛い、機関車ちゅうちゅうは、「ぴぃぃぃぃぃー」と鳴る、小さな汽笛や、「かんかん! かんかん!」と鳴る鐘に、「すうすすす しゅう しゅっしゅ!!!」と、凄い音を立てるブレーキと共に吐き出す、煙の迫力ある様も個性的な、ちゅうちゅうをいつも支えるのは、常に欠かさず世話をしている機関士の「ジム」、石炭と水をやる機関助士の「オーリー」、切符を調べたり、時間を管理する車掌の「アーチボールド」の、三人であり、彼らの愛に見守られながら、毎日たくさんの人や手紙、荷物を乗せて、走っていました。

 ある日、そんな毎日に疑問を感じた、ちゅうちゅうが考えたこと、それは、

「もう、あんな重い客車曳きたくないなぁ。たぶん、わたし一人なら、もっと速く走れるし、そうしたら皆がもっと注目してくれるし、きっとわたしだけを眺めて、こう言うんだろうな。『なんて、気の利いた速くて可愛い機関車なんだろう! ごらん、一つだけで走っているよ。しゃれてるね!』って」
(本編の文章を編集して書いており、実際の文章は、全てひらがなとカタカナ表記です)

 うーん、そうかなぁ(^_^;)
私の中では『気の利いた』と『しゃれてる』の意味が、いまいち分からないんだけど(スマートってことか)、まあ、たまには一人だけで自由に走ってみたい気持ちは分からなくもないし、でも、お客さんだって乗らなきゃいけないのに、そんなこと出来るの?

 と思っていたら、次の日ジムたち三人が珈琲店で休んでいる隙を狙って、まだ客車と接続されていない、ちゅうちゅうがここぞとばかりに、一人で走り出した! あーあ、どうなっても知らないぞ。

「みんな しごとを やめて わたしを ごらん!
しごとを やめて、わたしの こえを おきき!」

 と、勢いよく走り出した、ちゅうちゅうではあったが・・・取り敢えず、畑の牛や馬たちは皆逃げ出して、人も驚いて、思わず高い塔によじ登ったりしていて誰も見てないよ、というか、見る余裕がないんじゃ・・・。

 そして、ぴゅーと踏み切りを通り抜けた時は、人も車もびっくりして、あわやの大惨事に、皆ちゅうちゅうのこと怒っているが、読み手側は、その遠近両方のあらゆる角度から描いた、ちゅうちゅうの奔放な魅力を堪能出来る、絵本ならではの空想的面白さに、つい夢中となり・・・あっ、いつもなら下りている跳ね橋が上がっているけど、大丈夫なの!?

 と思ったら、下り坂で勢いのついた、ちゅうちゅうは、そのまま大ジャンプしてギリギリ着地!!
危ない、危ない。でも、後ろに付いていた炭水車が外れて落ちた時は、ドキドキしたね。まだ運は尽きてないよ。取り敢えず、その下の川であたふたしている人たちは置いといて・・・あとで謝ろう。

 その後もちゅうちゅうは、あちこちに飛び込んではまた抜けていきと、だんだん人気の少ない田舎へ向かっていきながら、今度は炭水車が無いので燃料がそろそろ尽きそうな心配が押し寄せて、まさに、線路のクネクネを再現した文章からも感じられる、ここに来ての、ようやくちゅうちゅうに心の迷いが芽生えだしてきた、「ああ、やっちゃったかな」感には、一抹の不安があったものの、そこは、ちゅうちゅうを怒る人もいれば、実の子どものように思っている人もいるように、最後には、照らされる彼の姿と、自ら暗い夜道を照らす彼との対照性も鮮やかな、光り輝く温かさに包まれた親子の愛情にも似た、感慨を抱くことが出来たのでした。


 本書の奥付にある作者紹介で、バートンが絵本作家になったのは、お父さんが足を悪くしたことにより、バレエを断念して家庭へ戻ったことが、きっかけであったことを初めて知り、人生のどの過程でそうなるのか、分からないものだなと実感したのですが、私からしたら、それも予め決まっていたかのように思えながらも、彼女の家族を大切に思う一面から、自然とそうなったのではないかと感じられたのは、本書が、機関車の好きな長男アリスのために描かれたことからも肯けるものがあり、また、それに寄り添うように、まるでちゅうちゅうが子どものように思えてくる、上品な可愛らしさを伴った、やんちゃぶりを伸び伸びと書いた、訳者村岡花子さんの文体も印象に残りました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 海外絵本
感想投稿日 : 2024年2月15日
読了日 : 2024年2月14日
本棚登録日 : 2024年2月14日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする