お母さんは赤毛のアンが大好き: 吉野朔実劇場

著者 :
  • 本の雑誌社 (2000年1月1日発売)
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本棚登録 : 148
感想 : 24
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 タイトルから推測して、読む前は、内容全てが、吉野さんのお母さんのエピソードで構成されているのかと思い込んでいたので、最初こそ戸惑ったものの、読んでいく内に、その懸念は気持ち良く払拭されていった。

 本書は、冒頭の漫画「オースターたち」のみ「ユリイカ(1999.1)」で、他は「本の雑誌(1996.11~99.6)」が初出である、漫画家吉野朔実さんの本の紹介から派生した、コミックエッセイとなっているのだが、彼女の凄いところは、たとえ本のタイトルを知らなくても楽しめるような、エッセイの内容の面白さにあると思う。

 それは、読んでいくにつれて自然と実感させられた、真底、本が好きなんだなという、彼女の本に対する直向きな思いへの共感と、あとがきでも書かれていたように、一人で楽しむよりは皆に投げ掛けることを至上の喜びとする、彼女ならではの人との繋がりを大切にした本の楽しみ方と、あとはやはり、本を通して繋がる家族同士の温かい絆が、とても印象深く、これらで構成された、単なる本の内容紹介に留まらないエンタテインメント性には、これぞ『吉野朔実劇場』なんだと実感させられると共に、そこには、彼女の素の魅力が内包している。

 例えば、シンプルな本に纏わるエピソードにしても、『自分で勝手にストーリーを展開させて、ひとりでぜんぜん違うところに行っちゃって、びっくりする(想像通りの展開であって欲しい訳でもない)』や、いっぱいある中でも、特に大事な本をすぐに持ち出せるような、『もしも袋が実家に2つある』の、「そうそう、分かる、分かる」と思わず肯いてしまう中にもあるチャーミングさが、もっとさばさばした姐御風のイメージを抱いていた私には、意外で面白く、もしも袋は、私もたまに考えるんだけど、実際に行動に移さない時点で、本の愛が足りないなと思う一方で、限られたスペースに何を選ぼうかと考えるのが楽しくて、いつも、そこで完結してしまうんですよね。

 また、皆に投げ掛けるテーマで面白かったのは、『栞(またはスピン)』は、何を使ってどこにどうやって挟むか議論が、人によって、こんなにも変わるのかといった、その人の読書の嗜好性とも結び付いているのが興味深く、もう一つは『私はこれを読み切った自慢』で、これは男女それぞれにあるのが、また面白く、男性編では、私が彼女を知るきっかけとなった歌人の穂村弘さんが、ものすごいイケメンで描かれているけれども、それに反して、読み切らなかった本ばかり挙げている、煮え切らない答えに思わず笑ってしまい(最後には禁じ手)、女性編では、会社員の高泉昌子さんの、「ふ」と、ため息を漏らしながら呟いた、『人はそれぞれ戦う本ていうのに一冊は出会うのよね』と、吉野さん自身のそれに、若さを省みた時のこそばゆい感じが、愛おしさに変わる瞬間を垣間見られたのが、忘れられない。

 さらに、忘れられないといえば、吉野さんの家族との絆も同様で、それは、お父さんの自由な振る舞いに、ああだこうだ言っても感じられた、吉野さんやお母さんの口に出さなくとも分かるような、信頼の伴った愛情であり、そこには皆が読書好きであることが密接に関わっていたことも、更に感動を引き起こしてくれて、改めて本の力を思い知る。

 そして、タイトルからも感じられた、吉野さんのお母さんの、いわゆる普通が一番といったポリシーは、彼女自身の才色兼備で現実主義な一面と似通ったものもあったが、その一方で、吉野さんへの揺るぎない愛情を持っていたことも確かなのが、痛いほどに伝わったのが、『親不孝者』のひと言であり、これは、子どもの頃のエピソードだから関係ないんだと思いつつも、吉野さんの亡くなられた事が、ふと頭に過ってしまい、しんみりとしてしまったが、それだけ吉野さんにとっては、いかにお母さんが好きだったのか、よく分かるエピソードであった。


 本書は、111108さんのレビューにより、出会うことが出来ました。
ありがとうございます。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: コミックエッセイ
感想投稿日 : 2024年2月23日
読了日 : 2024年2月22日
本棚登録日 : 2024年2月22日

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コメント 4件

111108さんのコメント
2024/02/23

たださん♪

「もう少ししたら読めそう」なのはこの本だったのですね!
雑誌連載なので取り上げられたのは90年代の話題になった本が多かったですが、吉野さんの読書熱量の凄さや周りの本好きな人達との交流が楽しそうでしたね。これは今ブクログでみなさんとお話しできてる喜びにも通じるなぁとしみじみ思います♪『私はこれを読み切った自慢』とか面白いですよね。若い頃ほむほむイケメンだったのかも‥。

それと芯の通った吉野さんのお母様、もし「良妻賢母」的な話だったらここまで素敵と思わなかったかも。絶妙な描き方ですね。

たださんのコメント
2024/02/24

111108さん♪
コメントありがとうございます(^^)

そうです。
最初、「お父さんは~」と、どちらを先に読もうか迷ったのですが、タイトルへの興味から、こちらにしましたが、本書を読んだら、お父さんのお人柄も個性的で、こちらも読みたくなりました♪ 
すみません、ほむほむについては、つい冗談交じりで、いつもあんな書き方になりますが、内面を知った上では、今でもイケメンだと思います。吉野さんが描く男性は、茶目っ気も感じさせるのがいいですよね。

それから、吉野さんのお母様は、一刀両断で切り捨てるような一面と、それとこれとは別といった一面が両立していることに、実は柔軟な発想が出来る方なのではないかと感じられたのが印象的で、111108さんの書かれていた、絶妙な描き方というのも納得です(*'▽'*)

111108さんのコメント
2024/02/24

たださん♪

ほむほむイケメン、若い頃限定みたいに私も書いちゃいました(๑˃̵ᴗ˂̵)
『お父さんは〜』もいつか読まれたらレビュー楽しみにしてます♪

たださんのコメント
2024/02/24

111108さん♪

しかも、吉野さんの描くほむほむの絵は、イケメンでいて爽やか風なのが(眼鏡も良い)、却って印象的で、111108さんに教えていただいた春日先生も知ることが出来て、良かったです(^o^)

お父さんは、本書でも退院後の言葉、『これからが夏休みなんだ』に胸を打たれまして、あちらも是非読みたいと思います。
吉野さんの魅力は、ご家族ならではのものでもあったのですね(^^)

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