おばけドライブ

  • ビリケン出版 (2003年8月1日発売)
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感想 : 16
3

前回の「おばけめぐり」は、涼しくなる目的に反して、怖くは無かったけれども、まあ、主旨が違ったというか、その代わりに得るものも多かったので、良かったと思います。

そして、実は・・・なんと、いつもの図書館の特設コーナーに、もう一冊コージさんの絵本がありました! しかも、今度は物語もコージさんですよ~。
これだったね、私の求めていたものは。

それにしても、気になるのは、この表紙の絵で、車のデザインこそ違うけれど、「おばけめぐり」の裏表紙の絵によく似てるんだよね・・しかも、発表されたのは、「おばけめぐり」の約一年後になっていて、まるで、瀬川さんの作品にインスパイアされたみたいで・・まあ、さすがに同じテイストはないだろうし、そこはコージさんだから、コージさんならではのぶっ飛んだ恐ろしい世界観が、きっとあるはず。あと、「おばけドライブ」ってタイトルが、ちょっとよく分からないけど、まあ、いいか。
今度こそ、涼しさをお願いしますよ!
では、早速読んでみましょう。


物語は、「ヘイザくん」が、たばこ屋で、おばけたからくじ(?)を買うところから始まって、それがなんと・・・一等賞のスポーツカーが大当たり!

そして、出てきたのは、あの表紙の車で、確かにカッコいいとは思うけど、ドクロは怖いというより、ロックのアイコンみたいになってるし、そもそも、これって霊○車では・・・なるほど、ここから何か起こるって訳ね。

車を手に入れたヘイザくんは、早速、ガールフレンドの「カアコさん」を誘って、山奥のカッパ池までドライブに出かけることになって、途中、集団ヒッチハイクの小学生たちを乗せてあげて・・って、イカした小学生だこと。コージさんっぽいノリだなあ。

それと、改めて思ったけれど、コージさんの絵って、何かヨーロッパっぽくて、それも、西の華やかな感じではなくて、東の民族色豊かな素朴さと愛らしさが、人物にも風景にも表れているようで、しかも、日本のそれを描いているにも関わらず、そう感じるのだから、この独特な雰囲気がコージさんの感性なのかもしれない。

『さっそうと 走っていると カアコさんが「カア!」と さけぶので
ヘイザくんが バックミラーを のぞくと』

『小学生たちは いろんな おばけに かわっていたのも ものともせず』

カアコさんが「カア!」は、笑っちゃうでしょと思いつつ、来ましたね。なんと、先程乗せた小学生たちが皆おばけに変わっていたという、この展開。
なるほど、それで「おばけドライブ」ね。
しかし、私はそうでもなかったし、ヘイザくんも平気そうで、これはまだ序章といったところか。

『走りつづけていると にわかに 空が かきくもり 大雨が ふってきて』

『くるまの マフラーから 黒入道が ドロドロとでてきて
くるまの やねを ぶっとばしたのも ものともせず』

おお、今度はマフラーから黒入道が出て来て、しかも、雷雨の中、屋根が無くなっちゃった。
それでも、ものともしない。まあ、これくらいじゃね。

その後、今度は車のボンネットから、牛鬼が出て来て、皆に臭い鼻息を吹きかけるのも、ものともせず・・・って、なんだろう、怖さの度合い云々じゃなくて、もう怖さ関係なくないですか、これ。
まあ、いきなり牛鬼が出て来るんだから、怖いはずなんだけど、黒入道も屋根を壊した後は、後部座席で、ちょこんと大人しくしているし、牛鬼も鼻息吹きかけるだけだし。いや、ここからだ、ここから。

『みんな おなかが へってきたので
とちゅうの とおげの茶屋に はいり 店の おばあさんに』

『ヘイザくんは カツどん カアコさんは 天どんなど
みんな それぞれ ちゅうもんしたのも ものともせず』

わかった。なんで怖くないか。
まず、ヘイザくんたちは、普通におばけたちと一緒にご飯食べようと、何の違和感もなく並んで座っているし、しかもよくよく見ると、そこはテーブル席じゃなくて、蛇女の尻尾の上に座ってて、せめて『ものともせず』は、こっちで使えよって思うけど、そもそも、『ものともせず』の主語が、ヘイザくんに限ったことじゃなくなってるのが、怖い話として、おかしいでしょうよ。

『そこへ 鬼のだんたいが 大型バスで やってきて』

『店の おばあさんに おやこどんや たにんどんなど どしどし ちゅうもんしたのも ものともせず』

お願いだから、私に涼しさを・・・。

『なかなか ちゅうもんしたドンブリが こないので
みんなは 大きな声で「おばあさんまだあ」と さけぶと』

『大きなドンブリを かついだ おばあさんが あらわれたのも ものともせず』

いや確かに、おばあさんのこの姿は、ある意味怖いけど、おばあさんもおばけなんでしょ。
というか、怖さよりも面白さが勝ってきて、下の方で何気にドンブリ支えてる使い魔みたいなのも、なんだか健気だし、それに、鬼たちもヘイザくんたちと一緒に溶け込んでいて、みんな仲良しか。
それと、文章の終わりに必ずある『ものともせず』が、だんだんツボになってきて、どうせ、このまま最後まで続けるんでしょ? って、お笑いか。

『ヘイザくんたちは いっせいに ドンブリに とびこみ』

『ぐんぐん 食べるのも ものともせず』

あはははは!!
もう、完全に笑わせに行ってるじゃないですか。
しかも、よくよく見ると、知らない人、混じってるし、なにが『ものともせず』だよ(笑)
あ~あ、今度こそ、涼しくなれると思ったのに。


そして、この後はカッパ池を目指して、鬼たちも誘い、一緒に行くわけですが・・・。

実は、私が最初に瀬川さんにインスパイアされたみたいでなんて書いたのが、強ち、間違いでもなくて、それは、ヘイザくんたちがおばけを怖がるどころか、一緒にドライブしたり、鬼たちが出て来ても全く動じず、一緒にご飯食べたりと、なんというか、ごく普通に皆と楽しんでいる様子に、これって、まさしく瀬川さんが書いていた、身の程を知って暮らしてきた謙虚な心なのではないかと思って、まあ確かに、『謙虚な心』と『ものともせず』は、同義語ではありませんが、結果、おばけも含めて、皆が楽しく共存している姿に、理想の世界像を見たといいますか、特に、終盤の夏休み恒例の、あの一枚絵は感動的ですらありましたし、『ものともせず』は、コージさん流の謙虚さなのかもしれないと思うと、イカした車のセンスに、笑いも含めた豪快で温かいストーリー展開は、ギターも弾く、コージさんの熱いロック魂も感じさせられた、最後のちょっと切ない終わり方も印象的な、ラヴ・アンド・ピースな絵本です。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 絵本
感想投稿日 : 2023年7月29日
読了日 : 2023年7月29日
本棚登録日 : 2023年7月29日

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