きみはいい子 (一般書)

著者 :
  • ポプラ社 (2012年5月16日発売)
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【サンタさんの来ない家】
『一枚のTシャツだって、一本の鉛筆だって、この子のためにだれかが用意してくれた。そのひとたちの思いが、この子たちひとりひとりにつまっている。
そのだれかは、昨日はこの子たちにごはんを食べさせ、風呂に入れ、ふとんで寝かせ、今朝は朝ごはんを食べさせ、髪をくくったりなでつけたりして、ランドセルをしょわせ、学校に送り出してくれたのだ。
そんなあたりまえのことに、ぼくはやっと気づいた。』

『たしかに、こどもは親をえらべない。住むところも、通う学校もえらべない。偶然によせあつめられて、ここにいる。ここで、揚げパンを食べている。
だからこそ。
みんな、こどもなりに、ここで、ふんばっているんだ。
ぼくは揚げパンをかじりながら、泣きそうになるのを、必死でこらえていた。』

【べっぴんさん】
『あたしもそうだった。
たたかれるようなわるいことは、なんにもしていないのに。
今になってわかる。
そのときはあたしも、あたしは世界で一番わるい子だと思っていた。』

『冬はいい。寒いから着込んで、肌の露出が少なくなる。たたいた跡も、けった跡も、おして家具にぶつけた跡も、積み木を投げつけた跡も、みんなあたたかい服がかくしてくれる。着せれば着せるほど、いいママになれる。』

『なんであんなことしたのよ。なんであたしを怒らせたのよ。なんであんなことして、あたしにたたかせたのよ。あたしは、いいママでいたかったのに。たたかせたのは、あんた。みんなあんたのせいなんだから。』

『あたしもそうだった。なにもかもがくりかえされる。
はじめからなにもしなければ、きっと、こんな気持にならなくてすむのに。
こどもを、生なければよかったのに。
そう。ママは、生まれなければよかったのに。
あたしなんか。』

『わらっている。でもその笑顔をいつ貼りつけたのか、あたしにはわかっていた。あたしもついさっき、扉の前で貼りつけたばかりだったから。』

『「たばこでしょ。おんなじ。」
はなちゃんママは、知っていた。そのときの痛みを。消えない親の怒りの跡を。自分の体に刻まれたそのしるしを見るたびに、自分は、親に嫌われている、世界で一番わるい子だと思い知る。いくつになっても消えない、世界で一番わるい子のしるし。』

【うそつき】
『ぼくは知っている。
たとえ別れても、二度と会わなくても、一緒にいた場所がなくなってしまったとしても、幸せなひとときがあった記憶が、それからの一生を支えてくれる。どんなに不幸なことがあったとしても、その記憶が自分を救ってくれる。
雨に振りこめられた家の中。
このひとときの記憶が、いつか、優介とだいちゃんを救ってくれますように。
ぼくは祈った。』

【こんにちは、さようなら】
「ね、ひろや。しあわせってなんだっけ。しあわせは?」
「しあわせは、晩ごはんを食べておふろに入ってふとんに入っておかあさんにおやすみを言ってもらうときの気持です。」

『たしかに、それほど仕合わせなことがあるだろうか。
たたかれたって、おとうさんに捨てられたって、おかあさんに殺されそうになったって、この子は仕合わせの意味をよくわかっている。』

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2018年2月24日
読了日 : 2018年2月24日
本棚登録日 : 2018年2月24日

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