生きる はたらく つくる

著者 :
制作 : 松家仁之 
  • つるとはな (2020年6月27日発売)
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感想 : 30
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P44 “縫ったりするのは、けっしてうまくない。うまくできないことは、なかなか覚えない。上達するのに時間がかかる。 だから逆に、こういう仕事は自分にとって、長くやっていられそうな仕事だな、と思ったのだ。 うまくできないことだからこそ、ずっとつづけられるんじゃ ないかと。妙な考え方だと思われるかもしれない。”

P92 “ところが長江には苦手意識のようなものがまるでないように見えた。「ちょっとこれは私には無理だ」と思わないらしい。ぼくが縫製を苦手だと思い、だからこそず っとやっていける、やめないでいられると考えるのとは、ちょっと感覚がちがう。ちがうの だけれど、結果的には似ているのかもしれない。自分のいる場所が行き止まりだと感じない。 これ以上やってもしかたないと諦めない。この感覚がなければ、ミナの長く厳しい時期をし のぐことはできなかったと思う。”

P188 “「働かされる」と感じたとたん、停止してしまうものがある。それは想像力だ。
あらゆる仕事には、自分の想像力をひろげる余地がある。部屋に掃除機をかけること、窓ガラスを拭いてきれいにすること、食後の皿洗いでも、自宅のトイレ掃除でも、想像力をひろげる余地はある。 想像力は、単純な労働作業に思えたもののなかに、変化を呼びこむなに かを発見することができる。 靴磨きのベテランは、どんなブラシをどの段階で使うか、汚れ の効果的な落とし方、クリームの適量、磨く布の種類の使い分け、磨く方向、力の加減など、 知識と経験のストックから手順を導き出し、身体的記憶にしたがって靴磨きの作業を進めて いるはずだ。自分を目指してやってきてくれる常連のお客さまとの会話、やりとりも、働く よろこびのひとつにちがいない。”

P213 “つまり服は、人間が最初に収まる、いちばん小さな空間でもある。そのなかに収まりながら、外側の空間と触れることのできる最小単位の空間、それが服である、と考え るようになった。服の空間をまといながら、外の空間に触れるよろこび。服の空間に包まれているからこそ、からだがのびのびとする。 服には着心地という言い方がある。しかし空間 の居心地として考えたとするなら、服に対するあらたな考えかた、クリエーションの発想が 生まれてくるのではないか。ぼくはいま、服の着心地とは別に、服の居心地とはなんだろう、 と考えるようになっている。” 

おもしろかった。つくりたくなる。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2023年9月23日
読了日 : 2023年9月23日
本棚登録日 : 2023年7月20日

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