第三帝国と音楽家たち―歪められた音楽 (叢書・20世紀の芸術と文学)

  • アルファベータ (2003年6月1日発売)
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感想 : 1
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これは、もはや喜劇だ。

タイトルどおりの内容(なお本書においては、音楽=クラシック音楽を指す)を、大量の資料を渉猟して徹底的に洗い出した、重厚・陰鬱・大部(A5判/300ページ/二段組/字組みツメツメ)な本。
なのだが、読み進むうちに乾いた笑いが浮かんでくる。「純アーリア」とは何ぞや、「ユダヤ人」とは誰を指すか、何が「頽廃音楽」か…このあたりをめぐるドタバタ、醜いエゴとエゴとのぶつかり合い(体制側・芸術家側問わず)、いやしくも一国の問題にもかかわらずまるで学生サークルのごとき内輪ノリ。何もかもがお粗末で、本来深刻な話なのに笑いがこみあげてきてしまうのだ。このあたりの印象は、「暗殺の政治史」(リチャード・ベルフィールド)にも似ている。
そのためかどうか、予想していたよりはるかに読みやすかった。読後感としては「ナチってひどい!」より、「人間ってどいつもこいつもどうしようもないなぁ」ではあるが。

(それにしても欧米における、かのチョビひげのおっさんの絶対タブーたること、さすが悪魔を信じる人々である。本書の筆致はだいぶ理性的だが、それでも特有の激烈さの一端はある。そもそも「ナチ化」という言葉に恐怖と嫌悪を感じながら、「非ナチ化審判」なるものに同じ感情を覚えないのが、個人的にはふしぎでならない。いったいこの世に「正しい洗脳」などというものは存在するのだろうか…)

2014/6/2~6/5読了

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 歴史
感想投稿日 : 2014年6月5日
読了日 : 2014年6月5日
本棚登録日 : 2014年6月5日

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