ヴェルサイユの異端公妃: リ-ゼロッテ・フォン・デァ・プファルツの生涯

著者 :
  • 鳥影社 (1999年5月1日発売)
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「太陽王」ルイ14世の義妹が語るロココの栄華の舞台裏——と聞くと、もうそれだけで手に取らずにいられない感じである。彼女は義兄にフランス王、従弟に英国王、義理の息子にスペイン王、孫に神聖ローマ皇帝を持ち、また徒花揃いのルイ14世の公式寵姫たちや、男色で鳴らした夫オルレアン公、その血を引く者のみが英国王に登れる叔母など、周囲の有名人には事欠かない。だが従来それらの陰に隠れがちだった彼女こそ、なかなかどうして傑出した人物だったことが、「かの有名な書簡の筆者」にとどまらぬ彼女を描き出した本書によって明らかになるのである。
とりわけ宗派(カトリックとプロテスタント)間のこまごました鍔迫り合いや瀉血中心の医療など、当時は当たり前だった、しかし現代の眼から見ると多分に言語道断な事象に対する透徹したまなざしは驚嘆に値する。縁談に差し支えたほど複雑な家庭環境にあって、父の貴賤結婚から生まれた異母弟妹を終生愛したり、夫の先妻腹の娘を我が子同様に慈しんだり、ルイ14世がお払い箱にした寵姫の子の養育を引き受けたりといったエピソードからも、その優れた人格は窺えよう。
みずから嘆いたように「女であったゆえに」、良き君主にさえなりえた資質を持ちながら、生前の彼女は不幸な政略結婚以外に何ひとつ成しえなかった。しかし逆境に次ぐ逆境にも腐らず、持ち前の理性と知性とユーモアで生き抜き、意図せずして時代の証言という大きな業績を遺した。その気になればいくらでも堕落のしようがある宮廷人にして、これまたなかなかできないことだと言える。
この「知られざる偉人」に加えて個人的に発見だったのは、書簡の相手として幾度となく言及される叔母ゾフィーについてである。その夫や息子夫婦との関わりから受けた印象は紛うかたなき「鬼ババー」だったのだが、この叔母を第二の母とも慕う彼女が語る面影は違っている。
人は一面的な存在ではなく、相手によっていくつもの顔を持つ…考えてみれば当たり前のことだが、非才の身にはやはり一つの「収穫」だった。
文章は平易で読みやすく、地図・系図も充実、歴史用語の説明は必要充分と、自信を持ってお勧めできる出色の書である。

2011/7/7~7/12読了

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 皇室・王家・貴族
感想投稿日 : 2011年7月12日
読了日 : 2011年7月12日
本棚登録日 : 2011年7月12日

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