無月の譜

著者 :
  • 毎日新聞出版 (2022年3月19日発売)
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感想 : 15
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奨励会に在籍していたもののプロ棋士になれなかった小磯竜介男性が、ふとしたとから太平洋戦争で戦死した大叔父が将棋の駒を作る職人だったことを知り、彼のことを調べ始める。そのなかで、大叔父が独自に書体を編み出し創り上げた幻の駒があることを知り、探索は海を渡りシンガポール、マレーシア、アメリカへと舞台が広がる。

将棋に関しては全くの無知で、ニュースで藤井聡太さんや羽生善治さんの活躍をすごいなーと思う程度。親族には鼻つまみ者だった大叔父の隠された真実、人生を追うミステリー的な要素に興味を持って読み始めた。

正直、将棋に関しての部分はちんぷんかんぷんで、流し読みになってしまったところが多いのだが、知られざる世界を知る楽しみもあった。
小磯によって少しずつ明かされていく大叔父の真実にページを繰る手が止まらなかった。
シンガポールでは先の大戦で日本軍が現地の人々にした仕打ちにもさらりと触れられており、このような事実は決して忘れてはならないと思った。
小磯の大叔父もシンガポールで戦死しているが、遺骨は見つかっていない。

現地で暮らす勝又が語る思いに深く共感した。
『あの戦争が本当に「義」のある戦争だったのかどうか、ぼくにはよくわからないけれど、しかしともかくあの当時、戦争にとられた若者たちは、少なくともその大部分は政府の鼓吹する大義を信じ命を賭けて戦った。その結果がどうであれ、彼らの死を無駄死とは決して思いたくない。そんなふうに片付けられたら、あまりに可哀そうだ。彼ら一人一人の死のおかげで、ぼくらの今この生活が可能になっている、彼らの死という礎石のうえに、僕らの生活が築かれていると思う』

わたし自身近年父を亡くし、父の人生って何だったんだろうと考えることが多かった。父の努力、悲しみ、嬉しさ、様々な行為や想いは、決して消滅していないし、この世界の、少なくともわたしたち家族の生きる基盤となっている。わたしの知らないご先祖、血縁のある人々が懸命に「生きた」ことが、わたしたちが今、無事に暮らせている礎石になっているんだと、思いを強くした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2023年4月20日
読了日 : 2023年4月12日
本棚登録日 : 2023年4月12日

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