ゴロツキはいつも食卓を襲う フード理論とステレオタイプフード50

著者 :
  • 太田出版 (2012年4月12日発売)
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本棚登録 : 701
感想 : 90

これは、オノ・ナツメさんのイラストに引かれて手に取った本。
フード理論らしからぬ表紙です。ゴロツキだからでしょう。

古今東西のさまざまなドラマのある作品には、食べ物がある一定の効果を上げる役割を果たしているという、ステレオタイプ化されたフード表現について語られたエッセイ集。
著者はお菓子研究家なので、食へのこだわりもひとしお。

タイトルに加えて

・なぜ、賄賂は、菓子折りの中に忍ばせるのか?
・なぜ、絶世の美女は、何も食べないのか?
・なぜ、カーチェイスではね飛ばされるのは、いつも果物屋なのか?
・なぜ、末期の水は、いつも間に合わないのか?
・なぜ、焚き火を囲んで、酒を回し飲みしたら、仲間なのか?
・なぜ、逃走劇は厨房を駆け抜けるのか?
・マグカップを真顔でかかえたら心に不安があるか、打ち明け話がはじまる

などといった項目が並び、それを眺めているだけでも楽しい気分になり、はやく読んでみたくなります。

○ なぜ、賄賂は、菓子折りの中に忍ばせるのか?

水戸黄門、大岡越前、暴れん坊将軍、遠山の金さん、必殺仕置人などといった時代劇で必ず登場する、小判の賄賂を贈るシーン。

「山吹色のお菓子」というのは小判の隠語だったそうで、一見普通の菓子折りに見せかけて中は小判がズッシリ、というのが定番化されたよう。
著者は「お菓子の下に小判とは、快楽の下に欲望をinすることだ」とアダルトな表現をしています。

また、少女マンガでよくある「失恋でやけ食い」というエピソードは、ちょっと失恋者がこの恋を一応吹っ切ったという意味をコミカルで可愛らしい行為で伝えることで、少女らしさをアピールしているとのこと。
「失恋相手を好物のフードと置き換えて、満たされなかった恋情や所有欲、性欲を食欲にすり替える行為に他ならない」と言われてしまうと、マンガの夢がなくなってしまいます。
恋わずらいで細くなった色をやけ食いで解消するという相関関係も述べられていました。

○ 朝、「遅刻、遅刻……」と呟きながら、少女が食パンをくわえて走ると、転校生のアイツとドンッとぶつかり、恋が芽生える

この長い項目には笑ってしまいました。なぜか何度もまんがで見たことがあるこのシーン。おそらく愛されるドジッ娘を現す食パン少女の存在は、日本でしか通じないのではないでしょうか。

○ カーチェイスではね飛ばされるのは、いつも果物屋

これは、ヨーロッパの映画などでも見かけるものです。
きれいに並べられたフルーツが、車の乱入であちこちにころころと散らばって行き、辺りはてんやわんや。なのに当事者たちはカーチェイスを続けて走り去る、といった、人騒がせな状況。

車が人を跳ね飛ばすのは、もってのほかです。ドラマどころではありません。
ほかのものでも、たいていは面倒な話になります。
ただそれが果物屋の商品だと、すこし擦ったかもしれないごく軽い衝撃でも、軽くて不安定な丸いフルーツは四方八方に転がって行くため、絵的に派手な演出となる割に、フルーツは壊れて痛むほどではないため、実質的な損害も少ないという安心が得られるという、死角なしの優秀なステレオタイプフードなのだそう。

(まあよくあるパターンだね)と思われることを一つ一つ採り上げているのがおもしろいですが、難を言うと、50も項目を挙げるのは多過ぎの感があります。
もっと絞って突き詰めていった方がよかったのではないかと。
目次だけでおなか一杯になれるものの、肝心の本文の方は「理論」というには軽すぎて、今一つつかみが足りない気がしました。

各項目にオノ・ナツメさんのイラストが載っているのが、ファンには嬉しいところ。
時々退屈な箇所はあったものの、総じて楽しく読めました。

食べ物の話は誰とでも盛り上がるし、いい話題にもなりそうです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 美容・料理
感想投稿日 : 2015年7月1日
読了日 : 2015年7月1日
本棚登録日 : 2015年7月1日

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