新自由主義批判の本は数あれど、「小さい政府vs大きい政府」という図式にはまった議論がほとんどだ。対して本書の主眼は、政治からの市場の完全なる自律を強調するがゆえに、実際には強権的な政治的介入を必要とするにもかかわらず、あたかも政治などの要素は考慮する必要がなく、純粋な市場原理だけで決定がなされるかのごとく擬制する「新自由主義的統治」を批判の焦点に据えている点にある。そのような統治の端的なあらわれが、ナオミ・クラインの指摘した「ショック・ドクトリン」あるいは本書のいう「経済ジェノサイド」にほかならない。すなわち、「古い政府を新しい種類の政府におきかえる」ような政治的外科手術である。
ホモ・エコノミクスを純粋に経済面だけで切りとられたフマニタスと表現しているのはなるほど、と思ったけど、フマニタス/アントロポスの対比を納得させるだけの厚みはやや欠けるかも。むしろ慎重さよりは勢いを残した筆致に好感をもった。たぶん経済史や思想史の基礎知識がない初心者にはちょっと読めにくいとは思うけれど、新書にしてはかなりボリューム感ある一冊。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
歴史と社会
- 感想投稿日 : 2013年7月9日
- 読了日 : 2013年7月8日
- 本棚登録日 : 2013年7月9日
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